『価値づくり』の研究開発マネジメント (その4)
2016-06-10
前回は、「自社の市場と技術を目いっぱい広げ活動する」の中の「市場」について議論しました。今回は「市場」に関する活動を、オープン・イノベーションとの関係の中で議論したいと思います。
ハーバード・ビジネススクールのヘンリー・チェスブローの同様のタイトルの本が2003年に出版されて以来、オープン・イノベーションの概念は世界中の企業に広まり、今欧米の企業では、経営の根幹のコンセプトの一つとして位置けられています。
日本企業においても、ここに来て代表的企業でやっとその価値が認識されるようになり、依然一部企業だけですが、オープン・イノベーションの活動が見られるようになってきています。
オープン・イノベーションの価値は、同書の中の、「P&Gは8,600人の科学者を雇用しイノベーションに努めている。しかし、社外には150万人の科学者がいる。社内ですべてのイノベーションを行うのは合理的だろうか。」(出所:「OPEN INNOVATION」、ヘンリー・チェスブロー著、産業能率大学出版部)と述べられているように、外部には自社の能力を遥かに超えた、イノベーション力が存在し、それが活用できるというものです。
しかし、オープン・イノベーションで得られるのは、既にある課題についての世界中の英知を集めての「解決策」であって、「解決すべき課題」を発見することではありません(もちろん、オープン・イノベーションの活動の中で後者を見つけるということはあり得ますが)。ここでの「解決すべき課題」とは、主に新たな製品や事業の展開による収益機会、すなわち新たな顧客価値提供機会と考えることができます。
言い方を変えると、逆に、オープン・イノベーションは、自社にその「解決策」が無くても、解決手段を提供してくれるという、大変強力な手段であるので、自社で新たな顧客価値提供機会を見つけることができさえすれば、世界中の英知によってそれを実現してくれるものであると言えます。
したがって、オープン・イノベーションと市場を知る活動とを同時に進めることで、オープン・イノベーションの価値は、また市場を知る活動の価値は、相乗効果的に10倍にも20倍にもなるということです。市場を知る活動をしていれば、様々な顧客の課題を見つけることはできます。
しかし、その課題のための技術が自社に存在する可能性は高くはありません。なぜなら、顧客の課題は、「自社の技術に関係なく...
」存在するからです。その部分を強力に補完してくれるのが、まさにオープン・イノベーションなのです。
私は、この部分が日本企業においてオープン・イノベーションが広まらない理由の一つと考えています。そもそもオープン・イノベーションの価値が認識されていなければ、欧米企業では盛んに活用されているという理由だけでは、盛り上がらないのも当然です。