デザインによる知的資産経営(その4)

 前回のデザインによる知的資産経営(その3)に続いて最終回を解説します。
 

◆デザインと経営

 

(2)社会環境を見る

         
図1.デザインによる知的資産経営
 
 図1の「② 社会環境」の把握についてです。 企業は社会的な存在です。これは「会社」という組織が できたときから変わらない事実ですが、デザインによる知的資産経営においては極めて大きな意味を持ちます。 すなわち、デザインによる知的資産経営は「ブランド」をつくり、「ブランド」を利用してイノベーションを継続しようとするものですから、「ブランド=社会の評価」と考えることが極めて重要です。
 
 つまり、自社に対する社会の評価を高めることが必要な のです。今まで社会が企業を評価する指標は、一般に貸借 対照表などの経理資料に限られていましたが、それらに接 するのは投資家など一部の人だけであって、需要者がこれ らの資料に基づいて企業を評価することは希有でしょう。 今、需要者は企業の行動に対する関心を高めています。
 
 ネット情報が豊富になり、企業の情報を需要者が容易に入 手できるようになっています。コストパフォーマンスの良 い食事を提供していることで高い評価を得ていた企業が、 アルバイトの過酷な労働環境がネットに公表されてブラック企業に成り下がった例もあるのです。
 
 これは、企業が社会的存在であるということを忘却してしまった典型例ではないでしょうか。社会的存在として評価を受けるため、従業者には「人間としての尊厳」を認める待遇をし、需要者には「この商品・サービスを買ってよかった」という満足感を与えること、これが最低条件だと思います。
 
 「デザイン」が人に寄り添うものであり、「人」には「従業者」も含まれる以上、デザインをベースにした経営を行えば、少なくとも「ブラック企業」にはならないはずです。ともあれ、自分の会社が社会や需要者からどのように評価されているのかについて、常にチェックする必要があることはいうまでもありません。
 

(3)企業理念との関係

 
 需要者を観察して得られた「需要者の潜在願望」を、自社で採用するかどうか、これを判断する基準が企業理念です。潜在願望に対応した商品をどんどん開発する、ということが企業理念に沿っているのであれば、それもいいでしょう。
 
 しかし、あくまでも企業理念に沿っているかどうかの検証をする必要があります。例えば、「自然の治癒力に委ねた健康の増進」という企業理念を持った会社が、天然成分だけの基礎化粧品を販売することは企業理念から逸脱していないとしても、需要者の要望としてマスカラやチークがあったとき、これに対応するかどうかは企業理念との関係で熟慮すべき課題になると思います。企業理念にぶれを出さない、これがブランドづくりの基本ではないでしょうか。
 

(4)デザインと経営のまとめ

 
 デザインによる知的資産経営、その基礎は「人」です。デザインは、その成果物を使う「人」のために行われる活動です。企業経営との関係でいえば、企業と人の双方を見つめつつ活動するのがデザインです。
 
 そして「今」だけでなく、仮説ではあるものの、将来を見据えるのがデザインです。今回の話を整理すると以下のようになります。
 
1.人(需要者)をよく観察しよう。需要者は現状に満足している顔をしているが、実は不満を持ってい
  る。
2.不満を集約して「課題」(仮説)を立てよう。
3.課題を企業理念と照合しよう。
4.自社の社会的な評価を意識しよう。
 

4.知的資産とのつながり

 

(1)知的資産

 
 図1における知的資産。経営に寄与する知的資産は「社会環境・需要者の動向」と「企業理念」の関係で適宜変化していきます。図1において固定化された要素は「企業理念」だけです。
 
企業理念を安易に変えてはなりません。前述したように、「需要者の動向(意識)」は仮説であり情報の増加によって変化します。その変化に伴い、「社会環境・需要者の動向...
」と「企業理念」の重なり部分も変化します。
 
 また、経営の方向性を決めようという場合と、商品開発の方向性を決めようという場合では、「社会環境」と「需要者の動向」のウエートづけも変わってきます。当然のことですが、前者の場合は社会環境のウエートが高く、後者の場合は需要者の動向のウエートが高いということになるでしょう。
 
 知的資産には、先に示しているように種々の情報が存在するのであり、その中から「社会環境・需要者の動向」と「企業理念」の重なり部分に対応するものを選択することになります。選択された結果が、重なり部分として図1の斜線に示す領域になるのです。
 
 
◆関連解説『技術マネジメントとは』

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