ステージゲートプロセスの活用(その2)
2016-07-21
前回のその1に続いて解説します。革新性(イノベーション)と表裏一体の関係にある不確実性にうまく対処するために、ステージゲートプロセスには以下の合計10の工夫が組み込まれています。以下にそれら工夫を順番に説明したいと思います。
最初に不確実性に対処すべきは、そもそもその不確実性を「低減」することです。ステージゲートプロセスには、そのための3つの工夫があります。
(1) 継続的な市場との対話
不確実性を低減するに最も重要な拠り所は、顧客です。なぜなら(ほとんどの)研究開発テーマの究極の目的は、最終的にそのテーマが生み出す製品の価値を顧客が認識し、それに対し対価を払ってもらう製品を実現することだからです。したがって、そのテーマの価値が、本当に顧客に受け入れられるのかを見極めるのに最適な手段が、顧客に聞くことです。ステージゲートプロセスではその創出価値について、早い段階から顧客との対話を繰り返すということを行います。
(2) フロントローディング
多くの企業において、先に技術開発を進め、ある程度の目鼻がついた段階で初めて事業性を考えるということをしています。しかし、早い段階から事業性を考慮した調査や計画づくりを行えば、早い段階でリスクを認識し、対処することができます。ステージゲートプロセスでは、早い段階から事業性を「仮説」でもよいので、構想・評価し、事業化の計画を策定するということを行います。多くの企業で、この点は研究開発の担当者の大きな抵抗を生み出します。しかし、本来少しの投資と時間を投入すれば多くのリスクを早期に認識し対処できるにもかかわらず、先を急ぐという理由で研究開発を先行するのは誤った考え方です。
(3) 英知を集める
テーマが革新的であればあるほど、社内の既存の知識や経験では判断できないという状況になります。しかし、それでも判断しなければならないのが、企業に突き付けられた現実です。一方で、社内を広く見渡せば、生産、知財、品質管理、営業、財務など様々な機能における専門家を社内に抱えているのが企業です。それら専門分野での知見・経験を総合的に活用すれば相当のことが想定できます。ステージゲートプロセスではテーマの評価を行うゲートでは、これら社内に存在する多様な知見や経験を持つ人材によって、英知を持ってテーマの評価を行います。
しかし、現状ではすべての不確実性を払拭することなどできません。これら払拭不可能な不確実性を所与として対処する4つの工夫が、ステージゲートプロセスの中には組み込まれています。
(4) 多産多死
テーマ創出段階では、不確実性が高いが故に、それが本当に事業的に成功するテーマかを判断することは大変難しいものです。この段階でできることは、成功する「かもしれない」というレベルのテーマを創出・選定するのが限界です。しかし、それら玉石混交のテーマをステージゲートのプロセスに投入し、少ない投資と時間であっても調査などの活動を行えば、テーマの筋は分かってくるものです。ステージゲートプロセスの中に設置された複数のゲートにおいて、その時点で「玉」ではなく「石」と判明・判断されたテーマは、中止します。このようなステージゲートの工夫は多産多死と呼ばれています。
(5) 多段階の段階的投資
ステージゲートプロセスでは最初から大きな投資は行いません。初期のステージでは少額の予算で活動を行います。しかし後のステージに行くに従い、投資額を増やしていきます。このような方法で、リスクをうまくマネジメントしながら、研究開発およびその事業化を進めて行きます。
(6) 評価の段階的精緻化
不確実性の高い初期の段階では、そのテーマに関しあまり活動を行っていませんので、ゲートで評価するための十分な情報はありません。したがって、初期のゲートでは精緻な評価は行いません。抽象的、定性的な評価でも構いません。しかし、中盤、後...
半になれば実際の研究開発活動を含め、顧客の実際の声を拾うなど様々な活動を行っていますので、相当量の情報が集まります(集めます)。したがって、中・後半では精緻な定量的・具体的な評価を行います。
(7) 初期には迷ったら前に進める
初期には上の(6)のような問題があるため、初期のゲートでは承認・中止の判断は迷うものです。その場合、初期のゲートでは迷ったら承認するということで構いません。なぜなら、次のステージで投入する経営資源は小規模であるため、結果的に次のゲートで中止になっても、損失は限定的であり、許容できるからです。
次回のステージゲートプロセスの活用(その3)では、2.3 不確実性に起因する「誤りに対処」するための3つの工夫から解説します。