『価値づくり』の研究開発マネジメント (その8)

 
 
 今回から、オープンイノベーションを経済学のキーワードから「範囲の経済性」を解説します。
◆関連解説『技術マネジメントとは』

1.「範囲の経済性」とは

 
 「規模の経済性」は、既に一般的な用語として、日々の企業活動の中で良く使われる言葉ですが、今回議論する「範囲の経済性」はあまり聞いたことがないかもしれません。「範囲の経済性」は「規模の経済性」とは類似した概念ですが、もちろん「規模」ではなく「範囲」という名称がついているのですから、相違点もあります。「規模の経済性」は、『同じもの』を数多く生産・供給することで、生産・供給する製品一個当たりの費用を低減しようとするものです。
 
 例えば、ある製品を作るのに百万円の金型が必要とすると、1個しか作らないのであれば、その製品1個に百万円の金型の費用が掛かってしまいますが、百個作れば一個当たりの金型費用は1万円で済むというものです。「範囲の経済性」では、自社にある「技術、知識や能力」を使って、『異なるもの』を数多く生産・供給することで、生産・供給する製品一個当たりの費用を低減しようとするものです。例えば、ある技術を開発するのに百万円掛ったとすると、その技術を使って、A製品を1個しかつくらないのであれば、そのA製品1個に百万円の開発費が掛りますが、B製品、C製品、D製品と合計4個生産することにも使うのであれば、1個当たりの開発費は4分の1の25万円で済みます。

2.「範囲の経済性」から見たオープンイノベーションの経済性

 
 オープイノベーションで相手方に提供する技術、知識や能力を創出・構築するには、すべての場合に何等かの費用が発生しています。そのような自社内で創出・構築に費用を掛けた「技術、知識や能力」を、自社だけ(上の例で言えばA製品)でなく、他社のB製品、C製品、D製品に利用すれば、そこには「範囲の経済性」が生まれます。
 
 自社(供給側)は、既にその「技術、知識や能力」を保有していますので、基本的に追加費用ゼロで他社に供給することができます(現実にはその他の部分で「取引コスト」等で費用は発生しますが)。したがって、その供給価格(需要側にとっては費用)は、そこに供給側が利益を載せても、需要側は自社でゼロからその「技術、知識や能力」を創出・構築するより低い費用で調達できる可能性が高まります。
 
 このように、供給側(...
自社)にとっても需要側(他社)にとってもメリットのある、いわゆるWin-Winの関係を実現できるのがオープンイノベーションと言うことができます。それとは異なり、オープンイノベーションを、供給者、需要者という関係で捉えるのではなく、2つの企業がそれぞれの強みを出し合うと見れば、それによりそれまで実現できなかった製品やサービスを実現することで、両者は費用を掛けることなく、追加的な収益を生み出すことができるという言い方もできます。
 
 

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