デザインによる知的資産経営:「知的資産」を活用する経営(その1)

1.「デザイン」と「知的資産」

 「デザインによる知的資産経営」連載の目的は、主として中小企業がイノベーションを継続できる経営体質をつくり出すための手法を提案することです。その手法が「デザイン」という考え方をベースとして「知的資産」を活用する経営です。今回は「知的資産」を活用する経営として、あらためて「デザイン」と「知的資産」という2つのキーワードを再確認するところから始めます。
 

2.デザイン

 この連載で使う「デザイン」という言葉は、物事の課題を発見して解決する手法、そしてその結果としての技術的工夫や形態の工夫、さらには商品やサービスの売り方の工夫までを含む、時間軸を持つ言葉です。またデザインという言葉の裏には「人に寄り添う」という基本的なスタンスが隠れています。技術や商品を起点として思考するのではなく、人を起点として思考するということです。

(1)生活者

 生活者をしっかりと観察し、分析することが重要です。なぜ需要者ではなく生活者なのでしょうか。需要者とは、ある商品を購入する人のことです。したがって需要者を観察するという視点に立つと「商品」というフィルターを通してしか人を見ることができません。
 一方生活者とは、この社会で生活している人、商品を購入して使う人のことを指しています。生活者を観察することは、人々の生活ぶりを観察することです。もし小林一三が生活者ではなく需要者を観察していたら阪急電鉄は倒産していたことでしょう。需要者はいなかったのですから。大阪で生活する人という生活者を観察したからこそ、宅地を造成して通勤者を呼び込む発想ができたのです。

(2)企業(自社)

 企業も人と同様、意思を持った社会的存在です。デザインの立場からは企業を単に「製造者」「商品・サービスの提供者」というような一面的な把握はしません。企業は社会に対して何らかの価値を提供するために存在しているのであり、経営者は価値の提供を目指して経営しているはずです。企業が提供しようとしている価値(企業の意思)は、一般には企業理念として明らかにされています。
 したがって、企業は企業理念に沿った活動・経営をすべきことになります。企業活動の原点は企業理念です。もうかるかどうかということを起点とした経営は、デザイン経営とは無縁です。イノベーションは「企業の夢」を追ってこそなし得るものだと思います。愚直に企業理念を物差しとして経営する。しかしその中では失敗する開発もあります。アップルも多数の失敗経験をしています。

(3)従業者

 従業者も生活者です。経営者は従業者を単なる労働力の提供者として位置づけるのではなく、生活者であるという原点を認識することが重要です。従業者が企業理念を共有することにより、個々の従業者の行動が企業理念に沿い、企業理...
念に沿った提案がされるようになるでしょう。また従業者は生活者として評価されることにより、自己の保有する「知的資産(情報)」を現在扱っている商品などの枠を超えて、提供するようになると思います。
 新商品開発においてしばしば「女子社員の活躍」が紹介されますが、彼女らは職場でも男性社員より「生活者意識」を持ち続け、生活者の観察に長けていることが活躍の要因にあるように思います。「女子だからできた!」と評価するよりも、男性社員の意識を「生活者」に戻すことが必要なのではないでしょうか。
 
 次回は、その2として、3.知的資産から解説します。
◆関連解説『技術マネジメントとは』

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