前回のその2に続いて解説します。
デザインによる知的資産経営:「知的資産」を活用する経営(その3)
2016-09-26
「協業」、これには二つのタイプがあると思います。一つはコアとなる開発成果が得られた後の「協業」、もう一つは地域産業を活性化する目的など、コアが曖昧ななかでの「協業」。地域で行われている企業のマッチングも後者に含まれるでしょう。
ここでは、前者の事例を解説します。「ハウスインナー」(登録商標)というコアになる開発成果(特許権取得)があり、その用途展開を目指した協業です。協業によって、短期間で、さまざまな使い方の提案、提案に基づいた商品が開発され、コアになる商品の用途・需要者・販路が拡大するということです。横展開のスピードアップです。
「ハウスインナー」の事例では、特許権という産業財産権が成立していたことにより、コアになる開発成果の独自性が客観化され、協業者への信頼獲得を実現しています。今まで産業財産権にはほとんど触れてきませんでしたが、デザインの手法により、人に寄り添って開発した成果の保護手段は、産業財産権です。「人」から出発して技術へ、そして「産業財産権」に至るということです。二つ目の協業、ここには多くの課題があります。仮に、地域産業の活性化という共通の目標を持って数社が集まったとしましょう。協業のためには、各社が自社の持つ情報(知的資産)をオープンにして参加企業が共有する必要があります。協業の目的は、数社の情報を共有し、それを資源として新たなパラダイムを構築することです。
しかし、参加企業にしてみれば、「自社の資産を他人に勝手に使われては困る、開示したくない」と思うのではないでしょうか。そのために「契約」があります。開示した情報は協業目的にのみ使用する、外部には開示しない、各社独自の事業でも使用しないという契約があれば、各社は情報(知的資産)を開示するでしょう。
つまり、協業で事業を動かす前提として「守秘義務契約」が必要なのです。この契約をしないで事業を開始しても、協業の目的は達成できないと思います。もう一つ、二つのタイプの協業に共通する重要な事項が二つあります。
一つは、新たな提案をした者を尊重するというルールです。尊重されず、勝手に他社が利用してしまうならば、開発意欲は減殺されます。もう一つは、参加企業の取りまとめ役、調整役が必要だということです。一つ目の、コアとなる開発成果が得られた後の「協業」であれば、コアとなる開発成果を持つ企業が取りまとめ役になることが可能かもしれませんが、第三者的立場での調整役が必要な場合が多いと思います。協業のための契約を取りまとめるにしても、調整役がいないと難しいでしょう。調整役としては、デザイナー、中小企業診断士、弁理士などが考えられますが、職種で選ぶのではなく、企業経営や商品開発の現場、そして知的財産権を理解している人を選ぶことが重要です。
ブランドは「信頼関係」なのですから、企業の大小や有名かどうかとは全く関係のないことであり、商標を使ったからブランドができるというものでもありません。重要なことは「ブランド」を表象する「商標」の使い方、経営における位置づけです。いわゆる「ブランド」を持っている企業は、そのブランドがどのようなものであるか、発信する努力をしています。
「企業理念」からブレない商品を提供することによって、ブランドの価値を維持・向上させています。他方、ブランドを意識しない企業では、そもそも自社の強みがどこにあり、どこが評価されて取引が続いているのかを理解していないのではないでしょうか。それを理解しなければ、自社のブランドをつくることができません。
そして、「信頼」の根源を発見すれば、それが自社の「強み」になります。ブランドづくりの一般論を語るのは難しいのですが、典型例としては、まず一つ、ヒット商品を創る。そのときに、商...
品の説明だけではなく、自分の会社がこれからどういう「生活者への提案」ができるか、という考えを含めて情報を発信する。そのネーミングと企業の姿勢をヒット商品によって需要者に覚えてもらうこと。これがスタートです。
ブランドをつくるために重要なポイントは、自社がどのような価値を生活者に提供するのか、これをはっきりさせて発信することです。一つの商品だけがヒットしても「ブランド」は築きにくい。商品のヒットは自社を知ってもらう契機であり、「ブランドづくり」の入り口にすぎません。ヒットが続いているうちに同じ理念による新商品を市場に投入し、自分の会社を理解してもらうことが必要です。第二弾の商品を投入するための原動力が「知的資産」なのです。
次回、その4では、知的財産権の使い方から解説します。