1. SCM構築の必要性・目的を明確化する重要性を取り上げる意味
読者の皆様にとって、「SCM構築の必要性・目的を明確化の重要性」など当たり前で、なぜ今さら取り上げるのか、という疑問を抱かれるでしょう。入社したての新入社員じゃあるまいし、そんな事は教えてもらわなくても百年前から分かっている、という声が聞こえてきそうです。しかし、今、各社のSCM実現レベルには、大きな格差が生じています。今回敢えてこれを採り上げるのには次の理由があります。
理由1:日本製造業のSCM効率は低く、日本こそSCM構築に全力を上げるべき
理由2:SCM構築が進まないのは、「SCM構築の必要性と目的」が明確でないことが最大の原因
2. 日本製造業のSCM効率は低く、日本こそSCM構築に全力を上げるべき
製造業のSCMに日々携わっておられる読者の皆様にとって、やや意外に感じられるかも知れませんが、日本の製造業のSCM効率は、欧米に比べ著しく劣っています。図1は、内閣府から報告された各国製造業のROA、つまり総資本利益率の推移です。
図1. 各国における製造業のROAの推移
出典:内閣府 平成25年度 年次経済財政報告(164P)
ROA(総資産利益率) = 利益 / 総資産
ROA(総資産利益率)は最近多くの製造業の決算報告でも採用されている指標であり、企業活動における投入資産に対する利益の比率を表す指標で、企業のSCM効率を示していると考えることができます。日本製造業のSCMの低効率性は、明らかでしょう。製造業の空洞化が課題であるアメリカと比較しても、ROAが半分にも満たない状況が永年に渡って続いています。程度の差こそあれこれはドイツにも劣っています。このように、日本の製造業は、まったく儲かっていません。
製造業に携わられている読者には、ご自身の感覚とギャップを感じられるのではないでしょうか、なぜなら、品質の高さやトヨタ生産方式に代表される日本の優れた製造能力に対する印象と、ROA、営業利益率の低さが、結びつかないからです。製造業の活動の本質が、投入した資源から得られる利益の再投入・循環であるとするならば、低いROAは、グローバル競争において圧倒的に不利な立場に立たされることを意味します。これは単に製造業だけの問題に止まらず、日本全体の大きな政策課題として永年認識されてきました。その原因については、多くの議論がなされていますが、次のようなことではないでしょうか。
●日本は、世界でも類を見ない競争の激しい市場であること
●日本における資本コストが欧米に比べ低水準であること
●企業活動全般における高コスト構造、など
さらに、最近特に話題にあがっているのは、『日本製造業の積極的な研究開発投資が利益に繋がっていないこと』です。図2は、各国製造業の研究開発投資と営業利益率との関連を、2000年台の推移として示したものです。
図2. 各国の売上高利益率・売上高研究開発率の分布
アメリカ、ドイツとも売上高に占める研究開発費率を低下させているにもかかわらず、売上高営業利益率を2倍以上に伸ばしています。一方、日本は、研究開発費率を増加させているにもかかわらず、営業利益率を低下させています。このことが、強い製品を生み出すマーケティング力・製品開発力、つまりECM(Engineering Chain Management)の強化が叫ばれている背景です。
図3. 製造業の基幹業務プロセス
ECMは製品のバリューを設計するプロセスです。一方SCMは、設計された強い製品のバリューを利益として実際に刈り取るプロセスです。いくら素晴らしい斬新な製品を生み出しても、SCMでそれを効果的に刈り取ることができなければ、底の抜けたザルと同じく本来獲得できる利益を垂れ流すことになります。
斬新な新製品を市場に投入し続けることは、至難の業です。一躍脚光を浴びた新製品でも、それが市場に飽きられ業績が低迷し、市場からの退出を余儀なくされる例は数えきれません。常に斬新な製品を...
世に送り出し続ける事を前提とする経営は、危うい経営と言わざるを得ません。そこそこのバリューを持った製品であれば、しぶとく利益を確保する、そのような強靱なSCMこそが、企業の安定的成長のインフラであるといっても過言ではありません。
世界に類を見ない厳しい日本という市場で生き抜いている、そのため営業利益率が低い、資産効率が悪いと、泣き言を言ってみても仕方ないでしょう。 何としても儲かる企業の体質、つまりSCMを作り上げるしかないのです。以上が、「日本こそSCMの構築に全力を上げるべき」と考える理由です。
次回は、SCM構築が進まない最大の理由について解説します。