中国に限らず、海外の工場で委託生産を行う場合、不良品を日本へ入れさせない事が大前提になります。それは不良であっても戻すことが難しいからです。今回は管理が手薄になる海外工場における品質管理のポイントを解説します。
海外工場で不良を減らす対策を5M(人、設備、方法、材料、計測)にManagment(マネジメント)を加えた6Mで分類してまとめてみました。ポイントは、日本の品質管理の常識である「工程で作り込む」と言う考え方を捨てて、工場の状況を良く見極めて「検査で流出を防ぐ」という考え方を徹底することです。くれぐれも日本流の「工程を改善して、工程で品質を作り込む」などど考えてはいけません。海外でこれを実施しようとすると膨大な手間と費用が掛かってしまい中小企業にとっては大きな負担となり、何のための海外生産か分からなくなってしまいます。
1. 「人」の見極め
海外では、作業者(ワーカー)と現場の責任者、管理層(部長)経営者に分けて考えると、現場の責任者と経営者を押さえておくべきです。部長クラスは、工場の管理部門を渡り歩いているため、現場を知らず、殆ど現場にも足を運びません。現場の責任者、経営者とも協力的であるかどうかがポイントとなります。特に現場の責任者は長年現場を管理しているベテランで、作業者を統率、生産状況を把握しているキーマンです。このような責任者が存在しているかどうかで品質は大きく左右されます。
2.「設備」の対策
現地工場を訪問した時、設備の立派さに驚かされることがあります。ところが、これに惑わされて生産を委託したところさんざんな目に合ったという話をよく聞くことがあります。結局、設備そのものの性能は良くても、それを使いこなしているかどうかが鍵になります。加工機械は、その機械ごとに特性を把握しているかどうか、また、加工材料によって、加工速度、エンドミルなどの管理方法はどうやっているか、精度の測定を、定期的に行っているか?など設備の維持管理の仕組みをしっかりと構築しているかどうかを見極めます。それには試作を何回かに分けて実施し、毎回同じ品質のものが出来てくるかを確認します。
3. 「方法」の対策
製造工程のQC工程表ができていることが理想ですが、海外ではほとんど望めません。ではどうしたらいいかと言うと、まず人のミスを防ぐあらゆる方法を講じます。ポカよけ治具、限度見本、専用工具、機械のアラーム検知などです。そして作業の出来栄えを第三者の立場でチェックする検査員を必ず配置させます。出来れば工程間検査、最終検査の2段構えの検査を行います。検査部門の現場の責任者の存在も重要で、製造部門ににらみを効かすことが出来るかどうかを見極めます。見た目で検査が難しい、メッキ工程、熱処理工程、溶接工程などは、抜き打ちで工程監査が必要になりますが、このような特殊工程はなるべく海外では実施しない工法を採用します。
4. 「材料」の対策
海外工場では、往々にして材料や部品を買いすぎて、2年も3年も倉庫に眠っている在庫品があります。期限切れ時期を明確にすること、買い過ぎを防ぐための在庫管理が必要になりますが、これはあまり期待できません。大きな材料倉庫を持っている工場は要注意です。ニセモノの材料や部品の購入を防ぐために、購入先を指定するようにします。
5. 「測定」の対策
測定機は備えられていても、実際に測定できる人がいなかったり、測定機が校正されていなかったなどは良くある話です。測定機があるからと言って安心せず飾り物でないかどうか。使っている形跡があるかどうか十分に確かめる必要があります。そして、海外では人出を介さずに測定や検査ができる自動計測器・検査機の導入をお勧めします。中国をはじめ、新興国では今後は人出不足が恒常化してくるので
初めから機械にその役割を担わせることが重要です。
6. マネジメント
最後に委託先を選定する側、および委託先の「マネジメント」の問題について触れておきます。選定する側にとっては、どのような内容を委託するのか、その委託先は、委託しようとする業界、業務、品質レベル、生産能力、今までの取引先はどうかなど過去の実績を重視し選定します。正式決定後、後でトラブルを起こさないように基本契約、品質契約を締結します。国内用の契約書の内容をそのまま適用するのではなく、海外用に罰則規定なども厳しく盛り込みます。多少の管理の不備はあっても、経営者の人柄、仕事を親身になって受けてもらえそうかどうか見極めします。最初は協力的でも、難しい加工方法でなかなか良品ができないと、仕事を途中で放棄する場合もあるので要注意です。定期的な工程監査は欠かさず実施します。監査と言うより、時々顔を出して、コミュニケーションに努めます。
最後に、筆者が出会った中国の工場で実施している、素...
晴らしい人事制度人材育成制度を紹介します。作業者は、ほとんど1年で入れ替わってしまいますから、そのつもりで、作業そのものの技能を早く身に付けさせる教育に徹します。肝心なのは、課長レベルの現場の管理層です。彼らが5年、10年と長く辞めずに留まっている企業は、一般に品質が良い傾向にあります。それは、言うまでもなく、彼らが品質の維持、向上に大いに貢献しているからで自主的に部下の教育、製造工程の改善を長期計画で実施しています。
では、なぜそのような管理層が長く留まり、モチベーションを保っているのでしょうか。それは、彼らを登用し、マネジメントしているトップの経営姿勢にあります。彼らを引き留めるための様々な魅力ある施策を実施し、やる気を引き出しています。金銭面だけでなく、新年の帰省制度、持ち家制度、車購入助成制度などなど、但し、成果主義での評価を実施し信賞必罰の基準は明確になっています。しかし、このような企業は本当にまれな例です。