中国への実用新案申請
2017-09-15
「セミナーで、『中国に申請するなら、特許よりも実用新案の方がいいよ』と聞いたんだけど、ホント」というお問い合わせを伺うことがございます。そこで、中国に実用新案を申請することのメリット・デメリットについて、解説します。
実用新案は、いわば「小発明」に該当します。特許の保護対象である「発明」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。それに対し、実用新案の保護対象である「考案」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義されており、「高度のもの」との記載がありません。そのため、建前上、実用新案は、それほど高度のものでなくても良い、ということになります。
しかしながら、日本では、他者のパクリを抑えようとしても、権利自体が無効になるリスクが高いとされており、十分に活用されているとはいえません。では、中国ではどうでしょうか。
特許は、申請から権利になるまで、だいたい3年くらいかかると言われています。それに対し、実用新案は、6ヶ月くらいで権利になると言われています。
日本では、他者のパクリを抑えようとしても、権利自体が無効になるリスクが高いとされています。実務上、特許と実用新案で要求される進歩性のレベルに差があるとは、必ずしもいえないためです。それに対し、中国では、無効の請求がなされても、約70%の可能性で生き残ると言われています。実用新案では、申請した実用新案と同じ技術分野の文献だけが考慮されるからです。また、原則、文献を2つまでしか組み合わせることができないからです。
日本では、特許と実用新案で同日に重複して申請することができません。実用新案が権利になってしまうと、その後、特許を権利にすることができないからです。それに対し、中国では、特許と実用新案で同日に重複して申請することができます。
このように、メリットをみると、確かに、特許よりも実用新案の方が魅力的なようにも思われます。しかしながら、必ずしもメリットばかりというわけではありませんので、次にデメリットを解説します。
特許では、製法の改良、化学品(化合物、結晶体)、原材料の組成といった場合も保護の対象になります。しかし、残念ながら、実用新案では、これらが保護の対象にはなりません。
申請時から、無効の請求がなされても、確実に生き残る請求項を準備しておく必要があります。
外国への出願をされる場合、国際出願(PCT出願)の制度を利用される方が多いと思います。PCT出願のメリットは、なんといっても、最初の日本出願から2年6ヶ月の検討期間があることです。しかしながら、2年6ヶ月後に特許と実用新案をダブル申請したいと思っても、特許と実用新案をダブル申請することはできません。ダブル申請を目指すのであれば、基本的に、最初の日本出願から1年以内にパリ優先ルートにてダブル申請すること...
になります。
特許と実用新案の2つを申請することになりますから、1つの申請に比べて、費用が多くかかります。
中国の実用新案は、メリットが多く、魅力的な制度といえます。例えば、PCT出願において、日本の審査官による国際調査報告の内容が芳しくなかったとしても、引用された文献の技術分野が今回の出願の技術分野と異なる場合や、文献が3つ以上挙げられている場合には、中国の実用新案は、大きな武器となり得ます。しかしながら、保護対象、費用対効果など、検討すべき事項が多くあることも事実です。『中国に申請するなら、特許よりも実用新案の方がいいよ』というようなお話を聞かれた場合は、弁理士にご相談されることをお勧めいたします。