今回は、製品評価ステージゲートにおける製品の意味的価値の重要性に関し説明したいと思います。
1.機能的価値と意味的価値
顧客が製品やサービスに求めている価値は、機能的価値と意味的価値に分けることができます(「価値づくりの経営の論理」延岡健太郎著)。機能的価値とは、技術により直接的に実現される機能です。例えば、自動車であれば移動という機能に加えて、加速性、走行安定性、静粛性といったカタログに仕様として記載される項目です。
顧客は一般的にはその機能的価値を求めてその製品を購入すると考えられていますが、必ずしもそれだけではありません。多くの自動車購入者は、これらの価値だけを目的に自動車を買う訳ではありません。顧客にとっては、自動車は自己主張や、見栄を実現する重要な手段でもあります。またアップル製品のユーザーは、決してスマートフォーンの機能だけを求めてiPhoneを買っているわけではありません。自分の自己主張やこだわりの実現手段としてアップル製品を購入しているのです。このようなカタログの仕様の中で記述されている機能を超えて、顧客自身がその製品の中に追加的な意味を見出す価値を「意味的価値」といいます。
2.意味的価値の重要性
サプライヤーによる、機能的価値提供のみでの展開の問題は何でしょうか?顧客は、基本的に自分が、また自社が享受する価値に見合った対価を払いますので、機能的価値のみを提供する製品に対しては、機能的価値の部分で販売価格が決まってしまいます。また、通常他社が実現できないような高い機能を盛り込むことで、その機能に対し顧客が高い価値を見出すものであるならば、発売当初は高く売れます。しかし、早晩競合他社が同様もしくはそれ以上の機能を組み込んだ新製品を投入し、市場では競争となり、自社のシェアは低下し、同時に価格競争が始まります。
一方、その製品により顧客にとっての意味的価値を追加することができれば、顧客はその部分に追加的な価値を見出し、それに見合った価格を支払うことに躊躇することはありません。また、意味的価値は、他社の模倣は難しいものです。例えば、iPhoneが実現した意味的価値を成功裡に模倣している企業は、今のところ見当たりません。
つまり、高い販売価格の実現、そして模倣の困難性の2つの点から、意味的価値は重要なのです。加えて、冒頭で紹介した延岡氏は、日本企業の強み(すり合わせ)とするはこの意味的価値創出に適していると述べています。今、日本企業は機能的価値の創出競争においては、韓国、台湾、中国といった資本力を持ち、意思決定が早く、長時間労働をいとわない社員を抱える企業との競争では劣勢に立たされているのが現状です。従って、今後は機能的価値だけではなく、日本企業のすり合わせ能力の強みを生かし、意味的価値の創出の活動を積極的に行っていくというのは、効果的な戦略であると思われます。
3.ゲートでの評価項目に意味的価値を含める意味
以上の理由で、ゲートでの評価項目として、この意味的価値が組み込まれているか、すなわち「当該製品・サービスが実現する意味的価値は何か?それは大きいか?それはなぜそういえるのか?」を、尋ねることには大きな価値があります。具体的には、
○プロジェクトチームによる意味的価値創出に向けての活動促進
この意味的価値という概念は、以上で説明したように有効でありながら、未だ日本企業においては、あまり知られていません。従って、ステージゲートプロセスにおけるゲートにおいて意味的価値の有無を重要な評価項目とすることで、その重要性を製品を起案するプロジェクトチーム側に知らしめることができます。
○意味的価値の価値をゲートキーパーに認識させる
意味的価値は、明示しにくいという問題があります。例えば、iPod nanoやshuffleというアップルの製品がありますが、この製品は蓄積した音楽を聴くための本当にそぎ落とされた基本機能しか組み込まれていません...
したがって、意味的価値をゲートでの評価項目に組み込むことで、ゲートキーパー側がまず機能的価値を越えた意味的価値をその重要性を含め理解するようになり、加えて個別製品の意味的価値を理解するセンスを磨くようになることが期待できます。