1.革新的テーマを生む「ハード」と「ソフト」の仕組み
ステージゲート法など、テーマ事業化のプロセスである「ハードの仕組み」の導入と並行して必要なのが、研究開発担当者が常にテーマ創出への関心を掻き立てられる心理的な仕組み、すなわち「ソフトの仕組み」を構築することです。この「ソフトの仕組み」が機能していないと、「ハードの仕組み」は絵に描いた餅になり、革新的なテーマはなかなか生まれません。
2.テーマ創出への関心を掻き立てる「ソフトな仕組み」3つの視点
それでは、どのような視点に立って「ソフトの仕組み」作りに取り組むのが良いのでしょうか。まずは、テーマを継続的に創出しないと研究開発担当者が困る状況を創出すること(ネガティブ要因)、そしてテーマを創出することで研究開発担当者が充実感を感じる状況を創出すること(ポジティブ要因)、さらに、テーマを創出し事業化する過程での阻害要因を取り除くこと(中立要因)の3つの視点に立ち、バランスの良い仕組みを構築することが有効と考えています。
なぜなら、今走っている目先の既存テーマへの取り組みの優先度が高い中にあって、ネガティブ要因は、研究開発担当者に新テーマの創出を直接的(制度的)および間接的(心理的)に強制するという意味で効果を発揮します。しかし、イノベーションの発揮の面からは、より前向きに研究開発担当者が自ら主体的に取り組みたいと思える仕組みが絶対に必要であり、それが、ポジティブ要因です。
またイノベーションの取り組み姿勢の面から、社員を「自燃性社員」、「可燃性社員」そして「難燃性社員」に分ける考え方がありますが、社員の大半を占める「可燃性」社員をリスクの高い革新的テーマに取り組ませるために、ポジティブ、ネガティブの要因に加えて、テーマ創出に向けての心理的なハードルを下げ、テーマ創出に取り組み易くするための仕組みが中立要因です。
3. テーマを継続的に創出しないと困る状況の創出(ネガティブ要因)
まず、ネガティブ要因について議論していきます。「ネガティブ要因」とは、研究開発担当者がテーマを創出しないと、本人達が困る状況になると認識する環境を創出することを目的とします。
ここで重要なキーワードが「継続的に」です。社内で一度大きな長期にわたる収益創出を実現する事業的成功に結び付くテーマが創出されても、それで満足することなく引き続き新しいテーマを次々に創出するモチベーションが重要です。なぜなら、ステージゲート法の多産多死の前提を充足させるためには、継続的に新たなテーマを創出することが重要だからです。
この方向には、以下のような2つの方法の例が考えられます。
1)継続的に新テーマを創出することに直結する目標設定と評価
まず継続的な新テーマの創出に直結する目標を与え、毎期この目標達成度を組織および個人の評価の対象とすることです。この評価は厳格に行わなければなりません。目標設定の指標に以下のような例があります。
例1)事業部門:新製品売上高比率
事業部門の場合には、新製品売上高比率の目標を与えます。ここで注意しなければならないのが、「新製品」の定義です。この定義には2つの視点があります。製品としてどのような要件があれば「新」とするのかということと、何年前に市場投入された製品を「新」とするのかという議論です。この点については、一般論としては、特に決まった定義はありませんし、後者については動きの早い業界(消費者向け家電など)と一度テーマが成功裏に事業化されるとその効果の長い業界(製薬業界など)など、業界により大きな違いがあります。
例2)研究開発部門:ステージゲート・プロセス各ゲートでの通過テーマ数
事業部から独立した研究開発部門の目標をどう設定するかですが、ステージゲート・プロセスのゲートの通過数で議論するのが良いでしょう。最後のゲートでは、企業の中長期の売上目標から市場投入必要数をある程度の前提を持って算定できます。また、そこに行き着くまでのゲートでの通過数も、これまでの傾向から算定することができます。このようにゲート毎の目標を設定する方法をとることで、単にテーマの数(「量」)だけでなく、「質」の面も評価することができます。
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