1. 知的財産と関連法案
知的財産には特許権、商標権、意匠権、著作権とあり、それぞれの対象となる範囲とそれを規定する法律との関連性を下図に示します。今回はものづくりに深く関係する特許権に対象を絞って説明します。
特許法における「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されており、次のような要件を満たす必要があります。
(1)産業上で利用が可能なもの
(2)新規性:公知、公用、刊行物に記載されていないこと
(3)進歩性:公知、公用、刊行物記載事実から容易に考えられないこと
(4)先に出願された発明がないこと
(5)公序良俗、公衆の衛生に反しないもの
文字にすると当たり前なのですが、(3)などはグレイゾーンがあり、司法判断が必要になる場合が出てきます。
2. 特許出願のトレンド
次の図2はここ10年ほどの世界特許出願件数推移です。
図2. 世界特許出願件数推移
特許出願数はリーマンショックの時期を除いて増加傾向ですが、日本だけが減少しています。その理由は、特許維持費用に対する節減意識が強まったこと、新興国が特許明細を見て模倣することを防ぐことがあるものの、高度成長期に比べて日本企業の開発力が低下していることは否めません。
その一方で中国の出願数の伸びが際立っています。中国企業の特許数が増えることで彼らの権利意識が高まり、日本技術の模倣が減ってくれれば良いのですが、これまでほとんど無かった日本製品に対する侵害訴訟が増えてくる可能性もあります。
以前から日本の特許は数が多いものの応用発明が多く、基本特許が少なかったという問題がありました。数はともあれ重要技術に関する基本的な特許権を取得していかないと、欧米だけでなく新興国に対しても将来的に特許料収支が赤字になりかねません。
3. なぜ特許があるのか?
どうして「特許権」という考え方があるのでしょう?新しい技術を発明するために人と時間と設備、材料が必要であり、すべて費用=お金と言い換えることができます。もし多額の開発費用を投じて発明した技術を、他の企業が真似して製品に利用し販売したとすると、先に開発した企業はたまったものではありません。開発費用の分だけ販売競争で不利になってしまいます。すると誰も新しい技術を開発する意欲を持たなくなり、社会が豊かになりません。
そこで、新しい技術を発明した人には一定の期間独占的に利用する権利を与えることで、発明活動を促進するのが特許権の目的です。これによって図3のように発明で得た利益を次の開発に投資し、新たな発明を創造するという知的創造のサイクルを回すことができるのです。
4. 特許利用の方法
もし特許権を取得しても、必ず自社で製品に応用しなければならないということはありません。図4に示すように、自社/他社が実施する/しないの2軸で4つの利用法が考えられます。
(1) 独占排他的実施:自社だけで実施して他社参入を特許権で防ぐことで、大きな利益をあげる。
(2) 開放的実施:自社だけでなく、他社にも実施させることで、その技術の普及を図り、ひいては長期的な利益を獲得する。場合によっては無償で実施を許し、短期間で広い地域での普及を狙うこともある。
(3) 将来準備:自社で利用しないが、他社にも実施を許諾せず、将来的に自社が実施する時の余地を残しておく。
(4) 収益的利用:自社で実施する予定がない場合に、実施権を他社に有償で与えて利益を得る。
5. 特許を取れば良いというものではない
上記トレンドのところでも書きましたが、特許明細には特許の請求範囲だけでなく、周辺技術や作り方なども記載するため、新興国を含む競合他社は確実にこれをチェックしていると思う必要があります。自社の製品が侵害していないか、自社特許と同じ請求項かを確認するのはもちろんです...
が、そうでなくても明細に記載した製造方法などを参考にすることは良くあることです。
出荷される製品の構造や機能に関する特許は自社特許権を侵害しているか判断が付きますが、製造方法などは一般に製品を見ても分からず、明細書を見て真似していると思えても訴訟を起こすことは難しい場合が多いのです。
そこで製造方法に関する発明は出願しないか、出願して1年半後の公開前に取り下げてしまうやり方があります。また発明を記載した文書を自分あてに郵送して、消印付の封書を開封せずに保管しておくという手もあります。どのように権利を獲得するか、他社に取られないようにするか、良く考えて行動する必要があるのです。