【連載の目次】
1. ヒューマンエラーの考察(その1)ヒューマンエラーとは
2. ヒューマンエラーの考察(その2)ヒヤリハットとは ←今回の記事
3. ヒューマンエラーの考察(その3)確認の形骸化とは
4. ヒューマンエラーの考察(その4)ヒューマンエラーを防ぐ組織・体制づくり
5. ヒューマンエラーの考察(その5)ヒューマンエラー防止対策
1. ヒヤリ・ハット
「ヒヤリ・ハット」とは、作業や業務を行っていて、ミスや事故を起こしそうになり、「ヒヤリとした」、「ハッとした」ことです。つまりは、本人がその事象自体に気付き、トラブルや事故までに至っていない事象ということになります。
2. 「ヒヤリ・ハット」と「インシデント」
一方、「インシデント」という言葉もあります。「インシデント」とは、「中断、阻害、損失、緊急事態又は危機になり得る又は引き起こし得る状況」(JIS Q 22300より引用)とあります。また、OHSAS18001(労働安全衛生マネジメントシステム規格)でインシデントとは「発生事象」として、「負傷又は疾病、若しくは死亡災害を引き起こす、又はその可能性がある作業に関連する事象」(OHSAS18001より引用)となっており、こちらでは、実際に起こった事故も含まれています。
即ち、インシデントは発生してしまった事故及びトラブルといった事象だけでなく、実際には事故までに至っていない事象まで含みますので、ヒヤリ・ハットは「インシデント」の中に含まれることになります。
3.「ヒヤリ・ハット」と「ハインリッヒの法則」
「ヒヤリ・ハット」を理解する上で重要なのがハーバート・ウィリアム・ハインリッヒの「ハインリッヒの法則」です。この法則は「1:29:300の法則」とも呼ばれており、「1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、更にその背後には300件のヒヤリ・ハットがある」というものです。即ち、軽微な事故やトラブル以上の事象を未然に防ぐためには、その背後にある300件のヒヤリ・ハットを如何にしてその段階で潰していくかということが重要となります。
4. 「ヒヤリ・ハット」の段階でヒューマンエラーによる事故やトラブルの芽を摘み取る
「ハインリッヒ法則」で述べた通り、事故やトラブルの背後には300件もの「ヒヤリ・ハット」が存在する訳ですから、ヒューマンエラーによる事故やトラブルを未然に防ぐという観点からも、この「ヒヤリ・ハット」の段階でヒューマンエラーによる事故やトラブルの芽を摘み取っておくということが重要となります。
そのためには、どのような「ヒヤリ・ハット」が発生しているのかについて把握する必要があります。そのためには、実際に業務・作業されている方から、各自体験した「ヒヤリ・ハット」の情報を出してもらい、その情報を吸い上げる必要があります。そういった活動が「ヒヤリ・ハット活動」です。
5. 「ヒヤリ・ハット活動」
「ヒヤリ・ハット活動」では、業務や作業を実施している当事者の方が、実際に体験した「ヒヤリ・ハット」を出してもらい、その「ヒヤリ・ハット」情報を、同じ業務や作業をおこなっている他のメンバーへ共有化し、その「ヒヤリ・ハット」が事故やトラブルにならないように対策することが大きな目的の一つです。
そのためには、各担当者、作業者の方から「ヒヤリ・ハット」情報を上げてもらう必要がありますが、この時に、何等か「報告書」の形伊など別の様式(フォーマット)で改まって「ヒヤリ・ハット」を報告させるような方法だと、各担当者、作業者の方の負荷が掛かってしまい、中々「ヒヤリ・ハット」情報が上がらず、結局長続きしない、ということになりかねません。このような活動はどのような形にせよ、継続することに意味があるのです。
そのためには、如何に担当者や作業者の方がやりやすい形で、情報を上げてもらうかといった工夫を行う必要があります。
6. 「ヒヤリ・ハット」をどのように扱うか
「ヒヤリ・ハット」をその段階で潰すために何等かの対策を行うため、管理しようとすると、どこまでを「ヒヤリ・ハット」として管理すべきか、また、様々な「ヒヤリ・ハット」があるため、どういったレベルに分類するかということについても考える必要があります。
考え方の一つとして、「軽微なヒヤリ・ハット」と「重大なヒヤリ・ハット」に分類し、管理する方法もあります。
「軽微なヒヤリ・ハット」とは、その「ヒヤリ・ハット」が、「作業者又は担当者(当事者)がミス等失敗してしまったが、その当事者自身がそのミスや失敗などに気付き、リカバリーを実施し、その結果、事故やトラブル等に至らず、また、他の誰にも迷惑を掛けなかった。」という内容のものが該当します。
一方、「重大なヒヤリ・ハット」とは、その「ヒヤリ・ハット」は事故やトラブル等までには至らなかったが(顧客へも迷惑を掛けていないが)、そのミスや失敗等により次の4点のように影響した場合です。
(1) その事象がそのまま事故になった場合、生命・身体へ大きな影響を及ぼす。
(2) その事象がそのまま事故やトラブルになった場合、経営や事業継続へ大きな影響を及ぼす。
(3) そのリカバリーにおいて、他部署等、当事者及び当事者の所属部署等以外に迷惑を掛けた。
(4) 間違ったモノ(仕掛等)・情報等が次工程以降に流出した。(但し、顧客や外部へは流出せず)
※(3)及び(4)は「事故・トラブル」として捉える場合もあります。
7. 「ヒヤリ・ハット」に対する取り組み方法の例
「ヒヤリ・ハット」活動により「ヒヤリ・ハット」情報が上がってきた場合、その情報をそのままにしておくのではなく、共有化及びその対策を考えなければなりませんが、その際に有効な取り組み方法の一つとして、「KYT(危険予知トレーニング)」の活用があります。
「KYT」とはグループ(職場のメンバー等)で、ある状況に...
ついての図や写真等を見て、その中からどのような危険があるかグループ内でブレーンストーミングを行い、その危険のポイントとその取り組みを考え、最終的にグループとしての取り組みを決定し、最後にその取り組みをグループ全員で唱和(〇〇ヨシ!)等を行うというものです。
「ヒヤリ・ハット」に対して対策を行おうとする場合、それを作業者や担当者個々で対策をさせようとしても難しく、作業者や担当者のみで行おうとすると、「ヒヤリ・ハット」情報の共有化や対策の水平展開が不十分となる可能性があります。そういったことから、上がってきた「ヒヤリ・ハット」情報に対し、管理監督者が職場内への展開及び対策を策定する必要があると判断した場合に、職場内のKYTでその「ヒヤリ・ハット」を題材とすることにより、その「ヒヤリ・ハット」の展開はもとより、職場メンバーで対策を考えるため、より対策の理解とその対策の順守についての意識付けにも繋がります。
【出典】この内容は、Tech Note掲載記事を筆者により改変したものです。