スクリーン印刷とは 高品質スクリーン印刷標論(その1)
2018-03-13
高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。
スクリーン印刷は、安価な道具で量産印刷ができる印刷工法です。スクリーン版とインキ、そして手刷り用のスキージがあれば、非印刷物である機材を平坦なステージに固定するだけで、容易に印刷することができます。
印刷品質は、「スクリーン版とインキ」で決まるため、これらを適正化すれば手刷りでも30ミクロンラインを印刷することが出来ます。写真は、大阪のステンレスメッシュメーカーが欧州の展示会で、来場者に手刷りで30ミクロンライン印刷を体験してもらっている様子と印刷物の拡大画像です。揮発性が低いガラス基板用の高粘弾性インキ(銀ペースト)をインクジェット用のシートに印刷しています。使用したスクリーン版のメッシュは、線径15ミクロンの650メッシュです。
未だに、スクリーン印刷は、職人技が必要だと思っている方が多いようですが、実際は、「手刷りで、誰でも30ミクロンラインが印刷できるほど安定した印刷工法」です。
しかしながら現在、多くのスクリーン印刷現場では、「スクリーン版とインキ」を高度に適正化されているとは言えません。また、スキージを始めとする多くの「前提条件」も適正化されていないケースもあり、作業者のテクニックに頼っていることが多いようです。
この原因は、スクリーン印刷の原理やインキ・ペーストの印刷性能を正しく理解しないまま、印刷プロセスの標準化がなされないまま、量産印刷を行っているからです。私が、提案する「ペーストプロセス理論」を正しく理解し、実践することで、誰でもが高品質スクリーン印刷プロセスを構築することが出来るようになります。
なお、「高品質スクリーン印刷」とは、高い均一性・安定性と寸法精度及び長いスクリーン版寿命を実現し、平坦で均一な膜厚の印刷を、作業者の技量を不要とした管理できるプロセスで実現することです。
オフセット、フレキソやグラビア印刷の多色輪転機では、各印刷工程間に短時間でインキの乾燥が実行されるため、インキには、比較的揮発性(蒸気圧)が高い溶剤が含まれています。また、版の画線部に付着したインキ表面の僅かな乾きを利用して、版から基材へのインキ転移率を維持するメカニズムの面からも必要とされています。
インキの含有溶剤の揮発性が高いということは、印刷中にも溶剤が揮発し、粘度や固形分量比率が変化する可能性があります。着色インキで固形分量比率が大きくなると、印刷されたインキの膜厚が厚くなり色度が変化します。
一方、スクリーン印刷では、他の印刷工法に比べて厚い印刷膜を得られることが特徴であり、溶剤型インキの印刷では、印刷工程の後に別工程で乾燥します。このため、インキ・ペーストに含有させる溶剤は、印刷される基材の耐熱温度に合わせ、60℃~130℃で乾燥できる程度の揮発性の低いものが使用できます。エレクトロニクス分野での厚膜ペーストと呼ばれる、セラミック基板用の銀ペーストや絶縁ペーストでは、沸点が200℃以上で蒸気圧が非常に低い溶剤であるBCAやターピネオールが使用されています。
近年、グラフィック・加飾インキでも揮発性が低い溶剤を使用した高粘弾性の新製品が登場し、印刷安定性、印刷解像性のみならず色度安定性も向上することが実証されました。
写真は、この高粘弾性インキで印刷したスペース30ミクロンで290ミクロン■パターンです。使用したスクリーン版のメッシュは、19ミクロン線径の500メッシュです。なお、加...
飾印刷業界で長年使用されてきた塩ビ基材用の汎用インキには、歴史的な諸事情から乾燥が速い溶剤が使用されており、そのままでは、安定した印刷が困難でした。このため、使用時に遅乾性の希釈溶剤を20~30%も添加し、印刷途中でも追加希釈するというような煩雑な作業を強いられていました。当然、初期粘度が非常に低く、固形分量変化率が大きく、印刷安定性や印刷解像性、色度安定性が低いものでした。そのため、この弊害を最小限にとどめるためにも作業者に熟練のテクニックが求められてきました。
このような業界事情も、これまで、スクリーン印刷が不安定な印刷工法だと思われてきた大きな理由の一つだと思われます。