お客様の役に立つ“印刷の技術者集団”に
1.人財育成と印刷技術の継承に注力
長野県長野市印刷業・株式会社アルキャスト(東 佑美 代表取締役・以下、東社長)は、2012(平成24)年4月設立。2017(平成29)年11月に現在の社名に変更しています。社名の「アルキャスト」は、ラテン語の「ARS(技術)」と英語の「cast(配役)」を掛け合わせたもの。「”印刷の技術者集団になる”」を理念に「製造業という、人間の技術があってこその業種のため、人財育成と未来に継承する技術に対して特に力を入れている」(同社取締役営業部長 東靖大氏・以下、東部長)といいます。
2.「環境配慮型印刷が必要な時代が来る」…きっかけは顧客のひと言から
現在「顧客の大半が県外」という同社ですが、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を知ったきっかけも、県外の取引先からの「環境配慮型印刷が必要な時代が来る」というアドバイスからでした。環境や地域課題に配慮した事業に向け同社のあるべき姿について模索する一方、2019(令和元)年には、長野県が企業の経営戦略としてSDGsを活用する企業を支援することを目標とした「長野県SDGs推進企業登録制度」に登録し、現在に至ります。
ダイバーシティ経営の推進では、同業社が主催するセミナーへの参加や外部講師を招いた勉強会、異業種交流などを通じ従業員らの見聞を広めており(目標:4、8)、「印刷業界だけにとどまらず、異業種との情報交換を通して、社員一人ひとりの考え方や価値観の幅を広げてほしい」と話しています。また、定年再雇用制度を採り入れ「長年培われた知識や技術は年齢を重ねても、会社にとって大切な財産であるため、定年後でも長所を引き出し、活躍できる部署を設けている」(目標:8)といいます。さらに「今後は製造業として機械操作がメインとなってくるため、外国人雇用も視野に入れた取り組みを進めていきたい」(目標:10)と話しています。
3.竹紙やストーンペーパーの特性生かし、地域貢献や持続可能な産業化を推進
「印刷会社としてインクや木材パルプといった資源を使用し、事業を行っている以上、『使わせていただいている』という気持ちを大事にしている」と話す東部長。E3PA(環境保護印刷推進協議会・東京都)から認証された、大豆を原料とし、リサイクル可能な植物油(ベジタブル)インクを使用するほか、竹を原料とした竹紙や石灰石(炭酸カルシウム)を主成分としたストーンペーパーを用途別に使い分けるなど、環境に配慮した取り組みを行っています。しかし、材料の特性上、インクの乗りや乾燥時間、色移りの問題といった課題をクリアし、製品として販売可能なレベルになるまでには半年を要したといいます。
竹紙は国内産の竹を100%利用した用紙です。東社長が里山で放置されている竹林が生態系に悪影響を与えているというニュースを見た際「竹林の適切な管理による土石流災害の軽減や生態系保全のため、間伐(ばつ)された竹を循環資源として利用し、少しでも環境保全に貢献できないか」との思いから調べたところ、国内で竹紙を製造している会社があることを知り、導入を決めたそうです。
【写真説明】国産竹100%利用の竹紙ノート㊧とストーンペーパー性の手提げ袋(同社提供)
同社によると竹紙は、鉛筆やボールペンなど筆記具との相性も良く、違和感なく使用できることから、現在は竹紙ノートの製作をしています。また、製本には長野県飯田市伝統工芸品として知られる水引を使用。針金を使わない事で、利用者の安全性と利便性に配慮しています。
竹紙ノートは地域貢献の一環として長野市内の中学校で導入されています。総合学習の中で竹について授業が行われていた縁から、竹紙ノートが取り上げられ、同社も外部講師として授業に参加。「たとえ小さな工夫であっても環境に貢献できる」ことを伝え、生徒から多くの共感を得たそうです。ノートの表紙には生徒のデザイン画を使用し、背表紙は教科別に使える様に色分けされ、オリジナルノートとして利用されています。また、竹紙への印刷は環境保護をうたう企業のパンフレットやチラシにも利用されているということです。
一方、ストーンペーパーは生産過程で木材パルプや水を必要としないことから、紙の代用品として注目を集めている新素材で、しなやかな手触りに加え、耐久・耐水性に優れていることから手提げ袋やハザードマップに利用されています。手提げ袋は大学のオープンキャンパス用の紙袋や学校指定の手提げ袋に採用され、東部長も「想像以上にSDGsに対する学びや意識の高さに驚いた」といいます(目標:12、13、15)。
このほか、同社ではLIMEX(ライメックス)[1]やユポ紙[2]といった樹脂を含んだ耐久・耐水性に優れた合成紙の印刷も行っていますが「脱プラスチックの流れも意識し、貢献度や使用用途に応じながら使い分け、事業を進めていきたい」(目標:14)と話します。
4. 非木材紙の活用と植樹活動を軸に環境保全推進
これら以外に同社では環境保全活動の一環として、2021(令和3)年から長野県信濃町で植樹活動を実施。植樹だけでなく、定期的...