コストダウンと分業化 CS経営(その3)

 ◆なぜ、日本の現場で問題が多発しているのか、前回のその2に続いて解説します。
 

4. 分業・モジュール化の進行

(1) ロボット化する人間

 製造業、サービス業など、産業の別なく、コストダウンを目指すことによって分業化が進行する傾向は顕著です。それは、「作業化」の進行と言い換えてもいいでしょう。作業化とはすなわち、スタートから完成までの流れを分業化し、役割分担を小分けにし、分業しただけコストの低い人数を配置し、機械的な単純作業の繰り返しを行ない、作業のみの担当者を配置するという、いわば人材のロボット化です。
 
 たとえば、ある種の機械を想定した場合、次のような分業化・モジュール化かそれに該当するのです。
 
① 設計すら外注する(可能な限り外注化)
② 部材・部品をそれぞれ安価で製造する企業に発注
③ できあがった部材・部品の組み立ては海外の企業に発注(人件費が安く済む発展途上国)
④ 部材・部品を流れ作業の中で順次接合する
⑤ 組み立て終了後に物流会社に渡す
⑥ 物流会社から発注企業に届ける
⑦ 製品(商品)を流通経路に乗せる
 
 サービス業でも似たようなことが起こっています。「ワンオペ」と称して一店舗に関わる作業を1人で行なうことでコストダウンを図り、ブラック企業の名のもとに閉店の憂き目に遭った店舗はマスコミで報道され、世間の知るところとなりました。
 
 これは極端な例でしょうが、大なり小なり同様の取り組み方をしているケースは多く、これもまた、マスコミに取り上げられ、過酷な労働条件の押し付けが大きな問題となっています。
 
 一方、一つの素材をカットするだけ、カットした素材を容器に入れるだけ、いくつかの素材を容器から出して一つの器に移すだけ、それを鉄鍋に入れて火を通すだけ、火を通した料理を盛るだけ、盛った料理の姿を整えるだけ、それをカウンターに運ぶだけ、カウンターに乗った料理を客席に運ぶだけ、食べ終わった食器をカウンターまで運ぶだけ、店内ではいらっしゃいませと笑顔で迎えるだけ、席に案内するだけ、注文を聞くだけ、注文を厨房に伝えるだけといった分業・モジュール化という手法も存在するのです。
 
 教育費をほとんど必要としないコストダウンに貢献する取り組みですが、顧客はこの一つひとつの作業の隙間に不満を持ち始めているのです。たしかに、アルバイトなどとして活用する若年労働者の人数が多かった時代は、人件費も安く、この手法によりコストは低く抑えられたでしょう。しかし、少子化に伴い、この方法、このシステムでは人手が集まらず、いきおい人件費も上がり、通用しなくなったのです。
 
 
 

(2) コストダウンしたつもりが招く「コストアップ」

 分業化においては、「安価に製造する企業」「安価で運ぶ企業」に発注するから安価になるのは道理ですが、部材・部品を流れ作業で組み立てる際に、人件費が安い国では、機械化を図らずに、人手に頼るのが通常のパターンです。そのほうが機械、システムを組むよりは安く済むからです。
 
 ところが、ここのところ発展途上国も人件費が上昇しているのです。だから過去のように安くはできません。とくに海外から当該国に進出している外国企業の場合、賃上げのためのストライキが発生するなど、メリットが少なくなってきています。
 
 そればかりか、海外進出組の企業が持つノウハウは、ほとんど当該国に確保されるに至り、自国の工場を止めて、工場は...
海外のみとしたメーカーは何も手元に残らなくなってしまったのです。同時に、アメリカ式のスキルとテクニックとパターン化による経営は、発展途上国でも同じことができ、同じレベルとなるため、とくにコストの面で全く太刀打ちできなくなっています。
 
 それらは、成果主義のもたらした結果でもあり、「金を儲けるためならなんでもあり」の国に日本が敵わないのは当然のことです。
 
 そして、過去に築いてきた日本独自の職人技、日本の良心、心配り、多能工などをないがしろにしてきたツケが一気に押し寄せ、世界から評価されてきた日本文化の良さは急ピッチに失われつつあるのです。
 
次回は、要素還元主義という悪魔についてです。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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