前回の序論に続いて解説します。
【目次】
第1章 混沌解明とN7(新QC七つ道具)←今回
第2章 挑戦管理とN7の選択
第3章 連関図法の使い方
第4章 親和図法の使い方
第5章 マトリックス・データ(MD)解析法の使い方
第6章 マトリックス図法の使い方
第7章 系統図法の使い方
第8章 アロー・ダイヤグラム法の使い方
第9章 PDPC法の使い方
第10章 PDCA-TC法の使い方
第1章 混沌解明とN7(新QC7つ道具)
1.1 はじめに
本書では、本来広範な適用範囲を持つN7(新QC7つ道具)の使用対象を、21世紀型スタッフワークにおける「混沌解明」と「挑戦管理」の2点に絞り込んだ上で、活用上のポイントと使い方の詳細に言及しようとしています。そして本章では、その2点のうち「混沌解明」について“混沌”の内容を、N7の使用対象という側面から分類・整理し、その各々の解明に最もふさわしいと思われるN7を選び、その選択理由を説明します。
1.2 混沌の整理
『混沌』というと、背景に根源的ランダム性を持つ複雑系における『混沌(カオス)』を想起して違和感を持たれるかもしれませんが、ここで意味するところはあくまで“現象”としての“混沌”です。すなわち、ある目的を達成するために設計されたシステムが、何らかの理由で機能しなくなったために起こるもので、その発生原因から次の3種類に整理することができます。
A. システム効率が低いために起こるもの
B. システムレベルが低いために起こるもの
C. 総合的評価基準の変動によるもの
AとBは、システムそのものに関わるもので原因が主として内的要因ですが、Cの場合は、周辺環境の変化に関わるもので原因が外的要因です。
1.3 混沌解明に役立つN7の選択
前項で整理した、A、B、C、3種類の混沌に対する詳細説明と、その解明にふさわしいN7の選択、並びに選択理由を下記に説明します。
1.3.1 混沌の原因がシステムに関する場合
管理者・スタッフを含む企業人は、企業目的達成のために設計されたシステム(組織、制度、規則等)の一翼を担って目的達成に努力しますが、ジョン・ゴール(注1-1)の言をまつまでもなく、一般的にシステムはなかなかうまく機能しないものです。
(注1-1)“システムは、一般に、不完全にしか働かないか、あるいはまったく働かないかのいずれかである”と喝破している「SYSTEMANTICS」(邦訳名:「発想の法則」糸川英夫監訳、ダイヤモンド社1978年)の著者。組織論のベースとして一読の価値があるでしょう。したがって、実務関係者もシステム運用上のトラブルはある程度覚悟しており、その都度適宜対応するものです。
しかしその程度が実務関係者による自助努力の域を出て、彼らが“混沌”と感じるところまでくると、管理者・スタッフが、そのよってきたるべき原因解明に参画し、しかるべき対処を実施することになるのです。その場合最も大切なことは、トラブルの本質がシステムの運用上の問題なのか、それともシステムそのものの問題、すなわち、システムのレベルが目的に合わなくなってきているのかの見極めです。
簡単なことではなくいろいろな方法が考えられますが、発生した問題の原因を調査し、表1-1のマトリックスのどのマスに件数が集中するかによる判断が、客観的で関係者の納得も得やすいのではないでしょうか。すなわち、② ④の件数が多いときが“混沌A”で、① ③ の件数 が多いときが“混沌B”ということになります。
表1-1. 不具合原因追及マトリックス
先述した解析により、当面する解決対象が“混沌A”か“混沌B”かが判明したとして、その各々にふさわしいN7の選択と選択理由を下記に説明します。
・混沌A:システム効率が低い場合
【選択手法】連関図法
【選択理由】
この場合のポイントは、末端におけるシステム運用上の問題点を漏れなく的確に把握することです。その点、連関図法の場合は、解析のためのデータ採取が「なぜ不具合が発生するのか?」のように、深い経験や知識を必要としない形の問いかけによるため、現行システムの運用に深く関わる末端作業者の生の声を含んだ言語データの採取ができます。
・混沌B:システムのレベルが低い場合
【選択手法】親和図法、連関図法(補助手段)
【選択理由】
この場合のポイントは、現状にとらわれない自由な発想を基盤としたシステムのレベルアップに寄与する解決策の模索です。その点、親和図法の場合は、解析のための言語データの採取が「不具合をなくすにはどうすればよいか?」のように、デザインアプローチ的な発想を促す問いかけになるため、現状を打破しシステムのレベルアップに寄与するアイデアや提言を含んだ言語データの採取ができます。
【補助手法】連関図法
【採用理由】
本格的な対策は、親和図法を起点として構築する新システムを待つことになるが、下記2つの理由により併せて実施するのがよいでしょう。
① 暫定対策立案のため
新システムへの移行までの間、関係者が混沌と評するような状態を放置するわけにはいかず、不完全ながらも暫定的に現行システムへの対応を行う必要があります。その場合、混沌Aに対するのと同様の手順で、現行システムの効率アップに最適な暫定対策を実施する必要があります。
② 新システムへの移行計画立案のため
新しいシステムに対する関係者の反応は、往々にして期待よりも不安の方が大きく、その不安感が新システムに付き物の初期トラブルに遭遇したとき新シ...