ゲートの運用で最も難しいことの一つが、テーマの中止です。中止すべきテーマを確実に中止するために、どのような対応策を考えるかについて議論します。
1.社内浪人で研究開発を「見える化」する
テーマを中止しない理由の一つに、テーマを中止してしまうと、何もテーマを持たない研究者が出てしまうというものがあります。マネジメントする側から見ると、研究者を遊ばせておくのはよくないという判断があり、また研究者側から見れば、何もすることがなくてはモラルが下がってしまうということです。
トヨタ生産方式の中核の考え方の1つに、「自働化」があります。自働化は自動化ではなく、動にニンベンのついた働という字を当てるものです。これは、生産設備に異常が起きたときには、自動的に機械が止まり、不良品を後工程に流すことを回避し、同時にラインを止めることで問題を顕在化させ、その場での対策を強く促す仕組みです。すなわち「見える化」です。
機械や人間が不良品を作ることは望ましいことではありませんが、人間が作った生産システムや人間自体が製品を作るので、不良品は必ず発生します。むしろ不良品の発生を改善の機会としようというのが、トヨタの自働化への考え方です。
乱暴に聞こえるかもしれませんが、研究者の社内浪人の存在を、自働化と同じように自社のプロセスの継続的な改善のきっかけとしての役割を担わせてはどうでしょうか?
2.「社内浪人」を積極的に活用する
(1)社のプロセスの「見える化」の指標とする
まず、社内浪人がいるということは、きちんとステージゲート法が機能していること、すなわち途中で筋が悪いと判明したテーマが確実に中止になっている表れです。従って、ある程度の社内浪人の存在は、自社プロセスの健全性の表れであり、「是」とするということです。
それでは、仮に社内浪人が沢山増えたらどうでしょうか?経営的に言うと、できるだけ社内浪人が少ない状態は良いことには間違いがありません。研究開発者が筋の良いテーマだけに取り組めば、経営効率は高まりますので。そこで、社内浪人の人数、割合を自社のプロセスの健全性の指標としてはどうでしょうか。社内浪人を適性な割合にするにはどうしたら良いかを考えるきっかけにするのです。例えば、アイデア創出の質を上げて、筋の良いアイデアの割合を上げようとか、初期ステージでの調査活動の効率を上げようといったことに工夫をするようになります。問題を目の前に突きつけられれば、人は知恵が出るものですし、そもそも「見える化」の目的はそこにあります。
(2)プロジェクトチームメンバーのモラルの向上
また積極的に社内浪人を「是」とすることで、プロジェクトチームメンバー側にも、中止によるモラルの低下を抑えることができます。また、中止になったプロジェクトの反省をする時間と心の余裕を持つことができます。
(3)新しいテーマを探す機会として活用
多くの企業において、テーマの探索には、少額の経営資源しか投入されていません。本来はもっとテーマ探索に時間と費用を掛けるべきです。何しろ、「Garbage in, garbage out」(悪いテーマにどんな優秀な研究開発者が取り組んでも、決して良い成果はでないとい)なのですから。社内浪人は、まさに新しいテーマを探すに丁度良い人たちです。本来投入しなければならないテーマ探索に、社内浪人になった人たちの時間をかけることは、追加投資にはなりません。
また、仮にテーマの探索の中から、直ぐにテーマがでなくても、市場で顧客の意見を聞く等の活動は、今後研究開発活動をする上で、大変良い経験になります。
(4)社内浪人は、常日頃からの新テーマ創出意識を高める...
しかし、多くの研究開発者は、本来研究開発のテーマに常に取り組んでいたいものです。できるだけ社内浪人の期間は短くしたいと思うでしょう。そのため、「社内浪人」は、常日頃から新テーマ創出を考えるモチベーションを高める方向に働きます。
以上のように、研究開発のマネジメントプロセスは、生産プロセスと同様、複雑なシステムであり、そもそも完璧に機能するということはありません。従って、生産プロセス同様日々改善していかなければなりません。一方で、両者には大きな相異もあります。生産プロセスは見える化が比較的し易いのですが、研究開発プロセスは人の頭の中で行なわれる活動の割合が生産プロセスに比べ格段に多いので、見える化をする指標には工夫が必要です。その面で、「社内浪人」は良い重要な指標になるのではないでしょうか?