◆技術力で勝る海外勢が、なぜ、日本の「おもてなし」に負けるのか。
1. 「日本流おもてなし文化」は武器になる
(4) 西洋のホスピタリティを知る
【サービス】
サービスはビジネス用語です。結果として売上、利益に結びつく活動がサービスだからです。ただし、強引に売りつける、嘘をつく、馴す、ごまかす場合、サービスとはならないのです。サービスの語源はラテン語のサーバス(曽回目)であり、奴隷を意味していました。しかし、次第にサーバント、すなわち「召使い」の意味になり、「気を利かす」ことが評価される仕事になっていき、結果として、「求められる前」「要求される以前」に提供することが、サービスとなりました(先進国のサービス)。
そうした意味においては、サービスとはチャレンジ型であり、創造性のある前向きのアグレツシブ(積極的)な要素を多分に含んでいますが、往々にして言われてから対応する、事が発生してから手当するなど、事後対応、対処療法的なものとなっています。そして、発展途上国のサービスは「受け身」であってもサービスと呼ばれているのが現状です。
【エチケット】
ルイ14世が建てたベルサイユ宮殿は別名・噴水庭園とか、バラ園と称される豪華な庭園で有名です。当時、宮殿には現在のようなトイレはなく、そのため王様の家族は専用のおまる(便器)を所持していましたが、宮殿で働く人たちは肥やしを兼ねてバラ園をトイレとしていたのです。当時のスカートは、落下傘状態で裾が広く長い形態をしていましたが、バラ園で用を足すために開発されたという話も聞いたことがあります。王はベルサイユ宮殿を一般にも公開するようになったのですが、来園者もまた用を足すことになり、庭園中が大変な状態に陥ってしまったそうです。
そこで庭園には注意書きが各所に立てられたのですが、そのときの木の札がエチケットと称されるようになり、注意書き、羅蓄といった意味になり、その後、ワインのラペルについてもエチケットと呼ぶようになったようです。
時を同じくして、ルイ14世の王妃が、王と家族と家来・僕の守るべきルールを定めたのです。たとえば、起床時間、着替えの順番、身体を洗う順番、食事の席次、食事のメニューとコース、食事の振る舞いなどが、ベルサイユ宮殿で決められ、現在、世界の基準となったということです。
【モラル】
モラルの由来は、ラテン語のMos(モース=習慣・風習)にあります。そこから、Mos Majorum(モースーマイヨールム=先祖からの習慣)がモラルの基盤となっていくのです。モラル=道徳的には、「形だけではなく、心を育む」という意味があり、法的規制は伴わないとも捉えられています。対して、Morale:モラールとは士気・働く意欲の意味です。
【マナー】
Manor(マナ)は英国における封建時代の荘園・領地を指している。Manorは、地域の集会場、すなわちコミュニティであり、良い人間関係構築のために個人が身につけていなければならない素養、資質であったのです。こうしてManor House(マナハウス)を作ったのが、Gentry、すなわちThe Gentryであり、特定の地域で特定の職業に就く上流階級の人たちでした(フランスの古語で「貴族」を指している)。そして、GentryがGentlemen、Manor Houseに集まる人達が、Ladies & Gentlemenです。
ここから、Manus(マヌス・手) +Cure(世話する)が、Manicure=マニキュアになり、Manual(マニュアル)、Manufacture(マニュファクチュア)、そしてManage(マネージ)が経営運営を意味するようになっていくのです。Manifest(マニフェスト...
)もまたここから派生した言葉です。
【コモンセンス】
中世のヨーロッパでは、誰の敷地でもない土地を「コモンズ」と呼んでいたのです。当時は一生、知人以外の人に出会わないほどの過疎だったということです。そうした中、当時の羊飼いは、やたらに草を食べさせると他の羊飼いに迷惑をかけると考え、きちんと端から食べさせ、次が生えくるような配慮をしたのです。この気づかいがコモンセンスの基盤となったのです。
日本の入会地の発想も同様の意味を持っていて、東京の茅場町の茅を刈る行為において、同様の配慮がなされたとききます。現在、日本では、コモンセンスを「常識」という言葉で表現しています。
次回は、2. 見えるおもてなし、見えないおもてなし、から解説を続けます。
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載