なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか CS経営(その22)

1. この「現場力」がすごい-全日本空輸株式会社(ANA)

 
 

(1) お客様の声にこだわる

 「飛行機を降りて、手荷物として預けたベビーカーを受け取るため、赤ちゃんを抱っこしたまま待っていたら、結局最後に出てきました……。飛行機を降りてからずいぶん時間が経ち、赤ちゃんは重いし、ぐずるし、非常に困り、そして苦労しました」ANAにこのような意見が寄せられたのです。一種の「愚痴」「困ったこと」「不満」であり、広い意味でいえばクレームといえるでしょう。
 
 これに対して、ANAは、「大変おつらい体験をさせてしまい誠に申し訳ありませんでした。お声をお寄せいただき、早速検討いたしました。今後はこのようなご苦労をお掛けしないよう、ペビーカーを最初にお預かりし、最初にお出しするようにしましたので、今後とも引き続きご搭乗くださいますようお待ちしています」といった趣旨の回答が、機内誌『翼の王国』に載っていた記憶があります。
 
 「顧客満足」「サービス」「日本流おもてなし」等を専門としている私にとって、ANA機に乗るといつも真っ先に読むのが、『翼の王国』であり、その中でも真っ先に目を通すのがお客様の声にANAが応えているページです。多くの課題にきちんと真正面から誠心誠意向かい合い、真面目に、そして顧客の立場に立ってスピーディに解決している姿勢が爽やかで、いつもいい気持ちにさせてくれます。
 
 ANAがこうした顧客に対応するときの合言葉は「マインド&スピード」。
 
 ペビーカーの例の場合、まず、顧客の声が最初に届くのは「コールセンター」でしょう。その後、CSプロダクト、サービス室、CS推進部に連絡が伝わると推測できます。おそらくCS部門は、旅客カウンター担当とやりとりし、荷物をお預かりする段階でどのように、誰の協力を得たらよいかについて調べ、ヒヤリングを行ない、相談するでしょう。
 
 また、とくにカウンター業務をはじめ、地上勤務者や顧客との接点を担っている現場担当者にはそれぞれ「IPad」が渡されていて、そこに自部門に関する直接的なことばかりではなく、直接、間接を問わずに皆が知っておいたほうがよいことは、微細な内容であっても情報を載せるのです。
 
 リアルタイムで変化している現場においては、どれが、そして誰がその問題に直接、間接に関わっているかわからない面もあるが、時としてそれが重要事項である場合も存在するのです。
 
 各人が所持しているIPadに情報を入力し、一斉送信することも行なっています。それによって一瞬のうちに誰もが自分のこととして情報を共有することができ、対応するスピードが劇的に上がるのです。
 
 それから、航空機への荷物積み込み作業をする担当者は次のように考えたでしょう。ベビーカーを一番後で航空機に積み込むためには、他の荷物を積み込む際に邪魔にならず、また積み忘れが生じないためにどこに置いたらいいのか。荷物を降ろす際、一番手前にあるベビーカーをコンテナのドアに近い場所に置くにはどうしたらいいのか。また、どのようにベルトコンベアーに載せたらいいのか。もし、大勢の人がベビーカーを預けたなら、どのように対処すればいいのかと。
 
 それらに加え、最終的に各部門の意見をまとめ、会社の対応策を確定させ、『翼の王国』に載せる文章を考えて、掲載するまで、社内調整は続くでしょう。
 
 ともかく、航空機を降りた後、ペビーカーを預けたお客様が最初にベビーカーを受け取れるようにするためには、バックオフィスを含めて、かなりの数の関連部署とのやりと...
りがあるということです。
 
 そして、部署間での相談とその後の連絡、スピーディかつ間違いのない形でお客様にお渡しするシステムを構築するため、担当部門との打ち合わせ、システム構築、各地の飛行場にその趣旨とシステムを伝え、正確に理解してもらう必要があるのです。
 
 一見、些細に思えるようなことも、手間、時間、コスト、理解促進のためにはこれだけの配慮が伴うのです。あなたの会社でも、きっとこのような仕事がいくつもあるはずです。しかし、実際には、野球でいうところのショートとレフトの間に落ちるフライのように、誰もが面倒に思い、差し出がましく感じ、躊躇し、結局は誰も取りに行かないということはないでしょうか。次回はこの点を掘り下げます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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