お客様の声にこだわるとは CS経営(その23)

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

 
 

 1. この「現場力」がすごい-全日本空輸株式会社(ANA)

(1) お客様の声にこだわる

 前回のCS経営:サービスの現場崩壊(その22)に続いて解説します。
 
 不満足度調査からは、顧客が指摘する各種の愚痴、困っていること、不満は、企業の組織内の部門・部署の隙間、上と下の立場の狭間に存在している問題が原因の一つだということがわかります。業務の引き継ぎに関しても多くの指摘がなされています。たとえば、顧客が「○○さんがお留守なら××をお伝えくださいと営業事務にメッセージを伝えたにもかかわらず、それが伝わっていない」という指摘は多いのです。
 
 同じように、実に厄介で面倒で些細に思えるようなことが各所に日々発生しているはずですが、ANAでは、お客様の安全、安心、快適に関わることであれば、いささかの手間暇をも惜しまずに、真正面から、そして些細な細かいことに至るまで手抜きをせずに課題に取り組んでいるのです。
 
 「あんしん、あったか、あかるく元気」。業績が伴わなかった時期、2002年以降のコピーは行動指針でした。外部に対しても、「私たちはこうした気持ちと姿勢で仕事をしています」と告知したのを、何回も何回も、画面や文字で見たり聞いたりしたので、乗客の一人である私もすっかり覚えてしまいました。
 
 最近は、この表現に接することは少なくなったようですが、社内では今も共通認識になっているそうです。そして、現在はさらなる「磨き上げ」を図るべく、顧客のための取り組みに日々邁進しているということです。
 
 先述したベビーカーの受け取りに関する素晴らしいサービスもまた、現場スタッフの方々の「磨き上げ」によって実現されたものです。顧客のためのさらなる成長、とくにクオリティアップ(サービス品質の向上とサービス品質保証の昇華)を目指し、さまざまな要件をきめ細かく、しかもそれぞれの担当者、それぞれの部門、部署が一体化し、融合し、螺旋状にシームレスにつながっている状態。常に「磨き上げ」が行なわれており、「ゴールのない旅」といってもいいのかもしれません。
 

(2) 専門分野と専門分野の糊代が生命線

 人の命を預かると同時に、人々に満足感だけでなく、幸せ感を提供するビジネスを「満足提供業」「幸せプレゼント業」と、私は表現しています。しかし「言うは易く、行なうは難し」です。
 
 そのハードルの一つが「専門性」です。専門性とは「一つの物事に対して詳しく掘り下げて知っていること」と捉えるのが一般的であり、またそのように理解している人たちも多い。
 
 そのため、簡単には他と相容れない「こだわり」、時には「拒否感」が伴うのが「専門性」といえます。そして、それが原因となってさまざまな問題が起こるのです。組織、大において、多岐にわたる専門分野が備わっていることで、その専門性が高く、深い分だけ、専門性と専門性の間に隙間が存在するようになります。専門性にこだわることで、それぞれの接点は接合・統合・融合で...
きなくなってしまうのです。
 
 そのような状況は、顧客にとってはかなり都合の悪いものです。時には、危険が伴う事態につながってしまいかねないのです。繰り返しになりますが、私どもの調査結果でも、顧客の不満の原因・怒りの温床となる事態は、この隙間に多く発生しています。隙間があるということは、顧客本位ではないということです。
 
 この場合、顧客にとって、当該部門・当該企業・当該組織は、やはり私流の表現だが、「不満製造業」「ストレス生産業」と映るでしょう。
 
 次回は、ANAの専門分野について列記して、解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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