◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか
2. 企業の垣根を越えた「付加価値創造」: 穴吹興産株式会社グループ企業
(1) 無意味な人事異動、組織変更の対極にあるもの
2014年に創業50年を迎え、現在は次の100年を目指し、組織を挙げて革新と発展に取り組んでいるのが穴吹興産株式会社です。25社(連結・非連結)の異業種企業グループで、社員数は約4500名の1部上場企業です。今から約15年前は社員数が約160名であり、急ピッチに成長した企業の一つです。では、なぜ大きく企業が成長できたのでしょうか。
それは、常に顧客、地域社会を大切にし、「地域に生かされ、生きる」をモットーに、トップをはじめ、全社員挙げて仕事に取り組んできた姿勢を顧客が評価しているからです(顧客の好感度評価については、同社の実施する調査結果にも表れています(武田マネジメントシステムズ調べ)。地域に密着した活動の一つとして、『うどん先生』の製作にも挑戦している。放送作家・プロデューサーの秋元康氏に依頼し、地域の子供たち、大人が出演する地元発信のドラマを作ったのです。
そして、クループに共通することは、何事も顧客満足(顧客とはステークホルダー、すなわち、消費者・生活者・ユーザー、社員、取引先、地域社会、株主など)にあり、「全ての仕事は顧客のためにある」という理解をペースにさまざまな活動を繰り広げているのです。
そして、各地域社会におけるすべてのお客様に対して、業種・業態は異なるものの、個別の一企業の顧客はグループ全体の顧客でもあり、お互いに地域を構成する一員でもあるという「理念」をグループ全体(穴吹グループの一人ひとり)で共有しているのです。
顧客のための諸活動で大切なことは、全社員が理念に基づき資質を向上させることです。それを担うのが教育・訓練、とくに教養を高めることです。それによって、「顧客満足→社員満足→顧客満足→社員満足」という好循環、すなわち女神のサイクルを生むことにつながるのです。
穴吹興産で商品、サービスを購入する顧客はもとより、いまだ購入したことのない人、それも同社の名前を耳にしたこともない人に購入体験を持った顧客が穴吹グループの良さを伝える、いわゆるロコミにより、新たに購入体験を持つ「個客」が誕生するのです。
「個客」「顧客」「お客様」が評価してくれることは、そこで働く人たちの大きな喜びになるでしょう。だから、さらにお客様に対する思いが強くなるということになるのです。「あの口うるさい人ですら穴吹で購入している」「あの著名な人が穴吹ファンである」「いつか自分も穴吹で購入しよう」という顧客の存在は、こうした女神のサイクルの一環でもあります。
どのようなマイナス要因が訪れても「業績=顧客の支持率」が達成される背景です。つまり、CS:顧客満足=社員・従業員満足=企業満足、そのものを意味するのです。
だから、業種は異なっていても、顧客のためになることであれば、人事異動も関連会社の代表者も役員も含め、グループ全体の社員を対象に実施します。組織異動も同様です。
人事異動については、「本人の適性評価のみならず、むしろ異なった分野の仕事に携わることで顧客基盤のグループ組織における仕事が理解でき、多能工の資質も身につけ、それぞれのクループ企業における仕事の付加価値向上が図れ、なお相乗効果が生まれる」という好ましい連鎖反応を生んでいるのです。
一般的には組織の形だけ変えて、中身が変わらない意味のない人事異動、組織変更を行なう企業が多いなかで、顧客の支持を受け実際の変革を生む、形だけではない実践的な取り組みとなっています。
個々の企業の特化され...
た専門分野は個々で実施しますが、グループ企業として大切なことは組織全体が共有するための組織横断的教育・訓練です。根底にこれが備わっていればグループ企業間の人事交流には抵抗がなくなる道理です。
もちろん、「言うは易く行なうは難し」で、顧客のためにこの課題を乗り越えていくことで、穴吹グループのブランド価値が、増加し続けていくのです。では、具体的に、どのようにして、25社が独自の企業活動に注力しながらも、他の24社と連携、相互協力し、相乗効果、付加価値創造を生み出す活動をしているのでしょうか。グループ企業の一角を担う「穴吹トラベル」と「あなぶきメディカルケア」「穴吹エンタープライズ」の3社の活動例を次回から紹介します。次回は、「穴吹トラベル」から、解説を続けます。
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載