◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか
7.フラット立ち寄れる何でも相談所:エース会計事務所
(1) 「専門性」についてもう一度考える
「専門」ならびに「専門家」を『広辞苑(第三版)』で引くと、次のような意味が載っています。専門:一つのことに限って専ら従事すること。また、その学科・事項など。専門家:ある学問分野や事柄などを専門に研究・担当し、それに精通している人。
つまり、端的にいうと、「一つの分野だけを研究・担当し、その分野に精通した人。玄人、熟達者。エキスパート、スペシャリスト」ですが、一つのことに精通していることに加え、そこに関係する分野においても詳しいことを指しています。
もう少し具体的には、「体系的な論理に裏付けされた知的、技能、サービスの開放性を持った分野、人」であり、「高度な知的技術を有し、行使する能力を持つ人」「範囲が明確で社会的に不可欠な仕事に専従する人」「個人的にも集団的にも広範な自立性がある人」「自立性の範囲で行なった判断に直接的な責任を負える人」「サービス動機が伴っている人」「適用方法が具体化されていて、倫理要綱が伴っている人」を指すといます。
以上のことを私なりに解釈すると、「山高ければ裾広し」ということになる。すなわち、専門性が高いということは、自分の専門分野だけでなく、周辺、あるいは全くの異分野の関連事項についても広く知っている、そういうことです。注意したいのは、「山高きが故に貴からず」ともいえる点です。これは「人間の価値は見かけだけではない」ということを指しており、専門性が高いだけで「本当の専門家」と判断するのは早計です。
(2) 悩みの多くは「誰に相談すればいいのかわからない」というもの
税理士、司法書士、行政書士は、長く「弁護士」の仕事の範躊にあるとされている領域に対して、その領域内の特定の仕事を、特化、分化し、腕を磨いてきました。弁護士の仕事があまりに広範囲に及んでいるというのも、司法書士などが仕事を拡大させる要因の一つです。
仕事を依頼する顧客からすると、「誰に依頼すればいいのか」「弁護士でいいのか」「弁護士費用は高くないのか」「その弁護士は果たして適切な選択か」といった迷いは必ずついてまわります。その際、税理士、司法書士、行政書士が「○○業務についてはお任せください」と看板をかかげることで、顧客のニーズを満たすことができるのです(ただし、現在は、弁護士の数が増え、互いの仕事領域が以前にも増して重なり合うという問題も発生しています)。
そのような業界において、「特定分野について、依頼者の課題を解決するために、精一杯の力を注ぐのが自分の仕事」と山田咲道氏は、明快に自分の仕事を定義しています(「先生」と記していないのは、公認会計士・税理士の先生というよりは、相手のことを深く広く考える温もり感を持っているお人柄を表現したいためです)。
また、とくに自身の父親が、中小企業の事業で苦労していた様子を見ていただけに、事業家が直面する問題の解決を図ることを仕事にしたという思いを持っています。中小企業の経営者の多くは、「自分がいま直面している問題を誰に相談したらよいかがわからない」と嘆いているということです。山田氏はそんな経営者たちに、直面していることにすら気づいていない課題についても提示し、無事に解決させることを生業としています。もちろん、山田氏だけでは解決できない場合、その道の専門家を紹介するなど、ハンドメイドで事に当たっています。
先ほど、「弁護士は多少敷居が高い」旨記したが、中小企業の経営者からすれば、司法書士も行政書士も大差ないともいます。知り合いがいるなら別ですが、ネットで検索しただけでは、どの事務所も同じように見えてしまい、誰に頼めばいいのか、結局わからないという状況に陥るに違いないのです。
顧客にとっては...
、「専門性はあるのか」「自分が解決したい問題に強いか」に加えて、「相性」もまた、選択する際、気になるポイントです。「正確で適正な解決を提示してくれる人」かつ「安心して任せられる人」に頼まなければ、会社生命に重大な影響を及ぼしかねない。
とくに中小企業というのは、自分の家族はもちろんのこと、社員、社員の家族、友人・知人、取引先、銀行、地域社会など、大勢の人々との関係の中で存在しているため、経営を誤ると、応援してくださる人々の期待に応えられないばかりか、その人たちの生活にも直接影響を与えてしまうのです。そんな経営者にとって、玉石混淆の税理士、司法書士、行政書士から、自分に合った人物を探すのは至難の業です。
次回は、(3) 類いまれな専門家集団の知恵が創造する「顧客満足」から解説を続けます。
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載