「おもてなしの神髄」 CS経営(その43)

 
  
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

9. 伝統を守る、でも飽きさせない、歌舞伎界

 前回の(1)、(2)に続いて解説します。

(3) アニメが先か、歌舞伎が先か (意表をつく演出の数々)

 
 徹底した顧客志向の歌舞伎には、観客を魅了するさまざまな工夫、仕掛けがあります。その努力、その発想、その実現力には、賞賛すべき内容が非常に多いのです。観客が喜び、楽しみ、感動することを常に考え、実現してきたからこそ今の歌舞伎があるのです。そういった意味で歌舞伎を「古い」「伝統的」「形式的」と評するのは間違っているようにも思います。
 
 歌舞伎は、「誠心誠意の観客サービス」という、どの時代にも共通する、普遍的な要素でできているのです。
 
 その一つに挙げられるのが「花道」です。「回り舞台」「迫り舞台」はその代表格といえます。舞台の面積は時に客席の面積とほぼ同じくらいのスペースを有し、迫り舞台は30人ぐらいを載せて上下させる昇降機能を有するものもあります。
 
 花道は、そこを通る人物に焦点を当てるための優れた装置であり、途中で必ず止まるのは、当時は存在しなかった照明・スポットライトやカメラワークに相当する優れた創造性、演出、工夫の産物です。
 
 今でも四国のこんぴら歌舞伎では、回り舞台や迫り舞台は人が地下で滑車の伴った柱から出ている棒状の丸太を押していますが、それ以外の舞台に関してはほとんどが電動です。
 
 迫りや回り舞台は場を効果的に転換し、見る者を驚かせ、意表をつき、そして飽きさせない演出なのです。
 
 今、アニメやCGで意表をつく演出をしていますが、実は歌舞伎の世界で培われてきた演出をヒントにしているケースが多いと聞きます。
 
 ちなみに隈取は、顔に色を塗って演出する方法ですが、赤く、太く書いた線は正義感や勇気を浮き彫りにし、気が盛り上がっている様子、怒って血管がふくれあかっている様子、青い色の太さは、悪人、敵役の度合いを示しています。さらに黄土色、茶色は鬼、妖怪など人間以外の不気味な存在を示しています。
 
 また、黒装束に身を包み、顔を紗幕で隠し、役者の演技を助ける人「黒衣」は、芝居の途中で小道具を持ってきたり、不要なものをさりげなく片付けたりといった役割を果たします。誰でもできる簡単なことのように感じるでしょうが、1秒の何分の1の絶妙なタイミングで実施することが求められ、かつ、細かい所作や俳優の癖などに精通している人でなければできない仕事であり、決して誰でもよいわけではないのです。
 
 外国の人たちはこの黒衣を「忍者?」「あれは何なんだ?」と奇妙に思うそうで、海外には存在しないこの役割はすぐには理解されにくいようです。
 
 同様に「馬の足」もまた実際には名人芸が求められるのです。たとえば、「品格のある馬」「勇壮な馬」「駄馬」「鈍重な馬」などの表現は大変難易度が高く、熟練の技といえるでしょう。いかにもきめ細かい、見えないところにまで目配り、気配りを行ない、それを実際の行動に移す日本流おもてなしの神髄ともいえる諸要素を伝承してきた歌舞伎らしさです。
 
 その「歌舞伎らしさ」を守るため、歌舞伎...
役者は3歳頃に初舞台を踏むのです。しかし、近年は小中学生にも参加のチャンスをつくり、新たな血を導入する方法も採用しているようです。
 
 いずれにせよ、あくまでも歌舞伎役者、すなわち人がすべての基本にあり、そこにさまざまな技術要素を駆使した舞台設備、装置、システムが関わる特別な世界なのです。つまり、歌舞伎は、いわゆるサービスの構成要素である商品・設備・システム・人的要素が揃っている素晴らしいセオリーどおりの世界といえる組み立てとなっているのです。
 
 次回は、被災地へ走れ・がむしやらに突き進む最強集団、株式会社熊谷組 から解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
     筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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