「おもてなしの神髄」 CS経営(その48)

 
  
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

11. 神経質な臆病さが生んだお客様の笑顔―株式会社クリーンサワ

(2) クレーム産業からの脱出

 クリーンサワは、1960年11月、クリーニング店としてスタートしました。設立当初から、クリーニングが「クレーム産業」であることを認識していたため、「お客様のご満足」「着る人の思い、着る人の心がわかるお店」を目指し、経営することを決めていました。
 
 もちろん、スタートしてからも、ミス、クレーム、トラブルに直面しましたが、一つひとつの課題に対して、「常に真正面から臨んできた」と代表の澤浩平氏は言うのです。その思いは今でも変わらず、「お客様のために」という一心で取り組みを続けています。そして、その過程で多くのノウハウを生み出し、さらにお客様に喜ばれるという好循環を生み出しています。
 
 澤代表は、「クレーム産業」といわれる業界そのものを変えたいと考え、自社のノウハウを自社だけのものとして隠すのではなく、『Q&Aクリーニングクレーム120』(繊研新聞社)を発刊し、開示しています。
 
 ただし、残念ながら、現時点においては、クリーニングが「クレーム産業」から脱したとは言い難い状況です。澤代表の著書は大変参考になりますが、技術は心と一緒になってはじめて力を発揮するのです。心ある経営者が「うちでも導入したい!」と頑張っても、「コストをどこまで許容できるか」「全社員に徹底できるか」といった壁があり、一朝一夕には改善できないからです(もちろん、そういった心ある経営者が増えることで、将来的に「クレーム産業」という汚名を返上するときが必ず来ると、私は信じたい)。
 
 ここまでお読みになった読者の方の中には疑問に思った方がいるかもしれません。そこまでコストと手間暇をかけて、どうして業績が好調なのかと。
 
 我が意を得たりと大変うれしい事例であるが、常々私か考えている「業績=顧客の支持率」達成の姿が、まさにクリーンサワなのです。
 
 ちなみに、クリーンサワでは、ここ数年、年間約40万件のクリーニングで、わずか3件ほどのクレームしか生み出していないというのです。これは驚異的な数字です。
 
 それほどまでに「気づき」「気くばり」「気づかい」が社員に浸透しており、だからこそ、「コスト品質」すなわち「顧客にとっても企業にとっても価値あるコストダウン」という本質的なコストダウンが可能になり、利益を生み出すのです。
 
 「ロスコスト」、すなわち、無駄なコストが、ミス、クレーム、トラブルを生み出すのですが、その対応費用はコストダウンの何倍、何十倍、何百倍にもなります。そして、それが引き金になり、ブランド崩壊、衰退、消滅に至るケースもまれではないのです。
 
 私事で恐縮ですが、銀座・和光勤務時は、その時々の総理大臣をはじめ、国民を思う本物の政治家、顧客を思う本物の経営者、専門家、職人、リーダーにお目にかかることが多かったのです。そこではたと気づいたことがあります。経営者、リーダーに欠くことのできない資質についてです。それは、表現こそ悪いのですが「臆病で神経質な人物」がその資質であると私は感じたのです。
 
 政治家なら国民、企業経営者であれば社員はもとより、その家族、取引先、地域社会など、大勢の人たちに関わるさまざまな責任を負っているなら当たり前のことでしょう。無神経でいられるはずがないのです。経過する時間が生み出す変化、群れのゆらぎを先んじてキャッチする動物的な勘、あるいは、空気を察知し、異変を捉える感性は、大勢の人たちの幸せ、満足を生み出すこ...
とになります。
 
 「大胆不敵こそが経営者の資質」と思い込んでいる経営者、あるいは従業員にとっては、受け入れがたいことかもしれないのですが、戦争で「俺に従え!」と威勢よく先頭をきって敵に攻め込むりーダー、大将についていったらどうなるでしょうか。もちろん、試行錯誤のうえで、「俺に従え!」とあえて言うなら話は別です。
 
 安易な言葉づかいや思いつき、軽挙妄動は「駄目リーダー」の特徴であり、もしこれが国を代表する人物であれば、国民は苦しみ、国は滅ぶでしょう。国民が苦しみ、国だけが成長することはないのです。企業だって同じです。
 
 次回は、(3)なぜ、クリーニング店が大企業、大学と協力できたのか。から解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
     筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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