「おもてなしの神髄」 CS経営(その53)

 
  
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

15. 革新的6次産業の発展:三ヶ日町農業協同組合

 

(1) みかん離れを食い止めろ

 三ケ日みかん、「聞いたことある」という方も多いでしょうだろう。 静岡県浜松市北区三ヶ日町、猪の鼻のような形をした岩がある猪鼻湖を囲む山の傾斜地に広かっているみかん畑周辺を管轄するのが、三ヶ日町農業協同組合です。
 
 この地域は、日照条件、水はけがよい土壌で、古くからみかん栽培が盛んな土地としてその名を馳せています。年明け以降の貯蔵みかん量は全国でも高いシェアを維持しており、農畜産物販売高約85億円のうち、みかんが占める割合は約85%、穀類、養鶏、養豚、養牛、疏菜、花き、果実類などが残りの15%を構成しています。
 
 柑橘類の生産量の推移を見ると、全国平均は2010年が底で、2011年は少し持ち直したという状況です。
 
 一方の三ケ日みかんの生産量は、1995年が底で、それから2005年まで一気に上昇していったのですが、2010年には生産量を落とし、2011年、持ち直している。自然との闘いはそう簡単ではないということでしょう。
 
 需要動向を見ると、1975年を境にみかん消費が頭打ちとなり、柑橘類離れも同時に進行しました。とくに若い世代のみかん離れは顕著です。1970年代は柑橘類の輸入自由化により廃園、樹種転換で栽培面積が減少し、1990年後半から価格が暴落し、1991年から、オレンジ、オレンジジュースの輸入自由化などが進んでおり、厳しい状況に拍車をかけています。
 
 このようなマイナスの要素を乗り越えるため、三ヶ日町農業協同組合は、組合員で何度も話し合い、試行錯誤し、いくつかの活動を開始しました。
 
 まず、ご当地シリーズ第一弾として、「みかんの皮むきアートワークショップ」をスタート。単なる「みかんの皮むきコンテスト」ではおもしろくないだろうと、「新しいみかんの皮のむき方」を考案したのです。
 
 名付けて「皮むきアートワークショップ」。同組合のメンバーがマスコットの「ミカチャン」の着ぐるみを着て、ハッピ姿で来場者をお迎えする取り組みです。参加者には、25種類の動物の形(うさぎ・馬・ヘビなど)のレシピが手渡されます。そして、かなり複雑な型紙をみかんにあて、型通りにボールペンで描いていきます。
 
 皮を動物の形に切るために用意したのはプラスチックのヘラです。子供でも安全に扱えることに配慮しています。そして、ヘラで切り込みを入れたら丁寧に皮をむいていきます。むきながら親子で会話したり、むいた皮を皆で見せ合ったり、来場者、農協職員とのコミュニケーションは自然と多くなります。そして表彰という流れです。
 

(2) 秘策!三ヶ日みかんのハイボール

 「みかんは食べないけれどお酒は飲む」、「三ヶ日みかんは知らないけれどサントリーのみかんのお酒は知っている」こうした成人は意外に多いのです。「サントリーのみかんのお酒」とは何だろうか。
 
 それは「トリスパイボール缶〈三ヶ日みかん〉」です。三ヶ日みかんを広めるためのご当地シリーズ第二弾として、サントリーと共に開発したのです。地域限定発売で、静岡県内で圧倒的な人気を誇るハイボールとなっています。サントリーウイスキーに三ヶ日みかんの果汁を加えたハイボールで、気軽に飲んでもらえるように、アルコール度数は5%、価格は160円程度です。
 
 2011年4月、「三ヶ日みかんハイボールの飲める店」は22店舗だったが、その年の年末12月には約1000店に拡大しています。...
地域限定ということもあり、県外から、三ヶ日みかんハイボール目当てに訪れる人がいるほどの人気ぶりです。
 
 2012年12月に、「冬季限定販売」という形で全国発売に漕ぎ着けました。販売規模は1ケース24本入りが10万ケース(240万本)となり、これだけでも3億8400万円の売上につながったのです。
 
 第一弾ご当地シリーズ、第二弾ご当地シリーズを経て、三ヶ日みかんというブランドは、TV、ラジオ、新聞、雑誌などのメディアによるパブリシティ効果で、全国区となりました。宣伝広告効果は、低く見積もっても4500万円の価値に換算されるということです。
 
 次回は、(3) 次なる一手は「オフィスみかん」から、解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
     筆者のご承諾により、抜粋を連載 
 

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