◆ 防汚コーティング、撥水コーティング剤
防汚コーティングは、スマートフォンや調理機器など私たちの身の回りのものから、産業分野、輸送機器、建築物などさまざまな所で使われています。汚れにはさまざまなものがあり、それに応じてさまざまな防汚コーティングが施されています。
防曇性を発揮するには水滴、汚れ成分の付着による曇りを防止することが重要です。その防曇性の維持には超親水化コーティングと防汚コーテイング加工が必要です。
この連載では、防汚コーティング、撥水コーティング剤を中心に防汚コーティングの利用分野と種類、親水性コーティングによる防汚性と親水性コーティング剤に関することをやさしく解説致します。
様々な用途分野で利用されている防汚コーティング技術。自社製品への適用や課題解決のためには、汚れや各種コーティング技術の基礎知識のみならず、付着・防汚のメカニズム、濡れ性・撥水性・親水性などの表面技術、コーティングの適切な試験方法・評価法など、幅広い知識が必要です。
【連載の目次】
1. 防汚コーティングの種類と特徴(その1) 防汚コーティングとは
2. 防汚コーティングの種類と特徴(その2) 撥水コーティング剤とは
1. 防汚コーティングとは
防汚コーティングという言葉になじみのない人もいると思いますが、身近な例ではフッ素樹脂加工したフライパンのように汚れが付着しにくく、汚れの落ち易いコーティングを総称して防汚コーティングと呼びます。非粘着コーティングという言葉もありますが、防汚コーティングの方が広い意味を含んでいるようです。防汚コーティングは、水で付着した汚れを洗い流すもの、酸化作用により汚れを分解するもの、コーティング膜が溶解して汚れ付着を防止するもの等様々な防汚メカニズムを利用して汚れ付着を防いでいます。
一方、非粘着コーティングは単純に汚れとの付着力を小さくすることで汚れを防止するものです。防汚コーティングは、建物外壁、屋根、窓ガラス、船舶、屋内の水回り関係、厨房機器、輸送機器、精密機器、ソーラーパネル等で様々な分野で利用されています。今回は、防汚コーティングの用途と防汚コーティング剤の種類、防汚のしくみ、代表的な防汚コーティング剤について解説致します。
2. 防汚コーティングの利用分野と種類
汚れには空気中の埃や粉塵、皮脂や食物、排気ガス等油性のもの、カビや苔等の生物由来のもの等各種のものがあり、汚れの種類や使用環境に応じて様々な防汚コーティングが用いられています。表1に防汚コーティングが利用されている主な用途についてまとめました。
表1.防汚コーティングの主な利用分野
船底塗料のような特殊な用途を除くと、防汚コーティングは親水性コーティングと撥水性コーティングに大別されます。親水性コーティングは、雨水等によって汚れを洗い流すことにより汚れ付着を防止するもので、建築外壁等の屋外やキッチン、トイレ等水回りのコーティングに利用されています。撥水性コーティングは、水性の汚れの付着を防止するとともに、汚れの付着力そのものを素材から低減する効果があり、自動車ボディや厨房機器等に用いられています。
3. 親水性コーティングによる防汚性と親水性コーティング剤
親水性コーティングの結果は、表面が水に濡れやすい状態となり、雨水等によって汚れを洗い流すセルフクリーニング作用により汚れの付着を防止する方法です。親水性、撥水性を表す確認指標として、水と表面が作る接触角があります。(図1.参照)
図1.接触角と親水性、撥水性
一般に接触角90°を境にして、接触角が小さくなる側を親水性、接触角が大きくなる側を撥水性と呼び、特に接触角10°以下を超親水性、150°以上を超撥水性と呼ぶことがありますが、明確な定義はないようです。表2に主な親水性コーティング剤を示します。
表2. 主な親水性コーティング剤
代表的な親水性コーティングとして光触媒系のコーティングがあります。光触媒コーティング膜の表面に紫外線が照射されると、その表面は非常に水に濡れやすい状態を作ります。光触媒の効果の一つがこの超親水性効果で、表面は水の吸着層を持ち、汚れが付着しても雨水等が汚れを浮かし、容易に水で洗い流される仕組みになっています。光触媒のもう一つの効果として光酸化反応があります。これは、光触媒に紫外線が当たると周囲の物質を酸化させる現象です。
この作用により油性の汚れ、苔、カビ等も酸化、分解され清潔になると言われています。尚、光触媒による酸化効果は、防汚コーティング剤のバインダー(結着剤)樹脂自身も分解させてしまうため、バインダーにはシリカ皮膜を形成するアルコキシシラン系の化合物あるいは化学的に安定なフッ素樹脂系のものが使われています。
また光触媒を用いない親水性コーティングとしては、アルコキシシラン系の化合物あるいはポリシラザン系の化合物が用いられます。どちらもケイ素化合物で、空気中の湿気(水)と反応してシリカに転化し、ガラス質の皮膜を形成します。(図2.参照)これら皮膜の表面は、水酸基に覆われるため親水性になりますが、平滑面で超親水性を得るのは困難で、超親水性に近づけるために表面状態を制御する工夫がなされている場合が多いようです。
図2.シリカ皮膜
親水性によるセルフクリーニング効果と撥油性による油性汚れの付着力低減...
の両立を目的として親水撥油性コーティングもいくつか提案されています。親水性と撥油性はどちらも水および油と固体表面の表面自由エネルギーの関係によって決まるものなので、一般に親水性が高い表面は親油性が高く、親水性と撥油性は両立しにくい性質があります。 親水撥油性コーティングの一つとして、分子中に表面自由エネルギーが低いパーフルオロ基と、親水性基の両方を持たせた構造にし、親水性と撥油性を両立させているものがあります。
次回に続きます。
【参考文献】
1)信越化学工業編:シリコーン大全 日刊工業新聞社
2)中島章:撥水性固体表面の科学と技術 表面技術 Vol.60, No.1(2009)
3)井本克彦:親水性コーティング 日本接着学会誌Vol46 No.5(2010)
4)唯岡英介、岩井満:ガラスコーティング技術による表面機能化 NEW GLASS Vol24 No.3(2009)
5)吉本哲夫:光触媒の固定化法 表面技術 Vol. 50, No.3(1999)