取り組み 新QC七つ道具: マトリックス・データ解析法の使い方(その3)

 
【目次】
序論   ←掲載済
第1章  混沌解明とN7(新QC七つ道具)←掲載済
第2章  挑戦管理とN7の選択←掲載済
第3章  連関図法の使い方 ←掲載済
第4章  親和図法の使い方 ←掲載済 
第5章  マトリックス・データ(MD)解析法の使い方←今回
第6章  マトリックス図法の使い方
第7章  系統図法の使い方
第8章  アロー・ダイヤグラム法の使い方
第9章  PDPC法の使い方←掲載済
第10章 PDCA-TC法の使い方←掲載済

第5章  マトリックス・データ(MD)解析法の使い方

 

5.2 事例(混沌C)に対する取り組み ―― その1

 

5.2.1 MD解析活用対象である“混沌C”の具体例

 
 ここで使用する説明用事例は、筆者の体験をもとにMD解析法説明用にアレンジしたセミドキュメンタリーです。こういった事例は、本来手法の説明後補足説明用として紹介されるべきものですが、MD解析法の場合、理解しやすさの観点から具体的事例をもとにした説明を先行することにしました。説明の仕方としては、活用対象である“混沌C”の具体例を取り上げ、事例(混沌C)の背景。MD解析法によらない取り組み結果と問題点。MD解析法活用結果。について、次の3点を重点的に説明します。
 
 
 これらの説明は、本来はMD解析法の数理の理解の上に立つべきですが、前述した通り本書では、精力を“適正な活用”すなわち“活用対象と活用上の諸判断を誤らない活用”に集中するため、数理には一切触れません。
 
 

5.2.2 事例テーマ「組立係への新入社員配属基準の策定」

 

(1) 背景説明

 
 重要保安部品の製造を担当する課(6つの係からなる)に、毎年20人前後の新入社員が配属されます。適正配属のための情報として、次の2つの資料が人事課から与えられます。
 
 
 課としては、上記資料と3週間の実習状況、並びに、実習後の面接結果を加味して係への配属を決定しています。
 

(2) 係への配属方法

 
 配属先である6つの係を、ミスが顧客クレームに直結する可能性の高い組立係を筆頭に配属者優先順位をつけ、A~Fの符号をつけます(組立係はA)。配属者の優先順位は、新入社員ごとに与えられます「9項目の適性検査点数と工場の筆記試験の点数の合計点」とし、その高い順に次のような順番で配属先を割りふることを原則としています。
 
 【A B C D E F A B A C A D A E A F A B…】
 
 よほどのことがない限りこの原則通りとし、面接など合計点以外の情報は、係内での配属に反映するのが例年です。ちなみに、N年度とその前年度[(N-1)年度]の2年間に課に配属された新入社員の個別データは、No.1~20 の20人がN年度、No.21~39の19人が(N-1)年度です。その中から、上記方式で組立係へ配属された者は、N年度がNo. 8、9、11、14、17、18、(N-1)年度はNo. 22、27、31、33、37、38でした。
 

(3) “混沌C”の発生

 
 N年度の配属を例年通りに終えて1カ月したころ、組立係長が深刻な顔をして課長である筆者に相談を持ちかけてきたのです。その内容は、配属を受けた6人のうち、No.11、14、17のような作業者を配属されたのでは組立係長として責任が持てない、というものです。課の草分け的な存在であり、終始組み立てに関わり、責任者として信頼を得てきた彼の言は重いのです。しかも、彼が指摘する対象者が配属者6人のうちの最低点の1人ならともかく、半数の3人となると、“母集団の水準が毎年同じ”という前提の現在の配属方法が通用しなくなったことを示しています。ということは、組立係配属者について、年度による母集団の水準の影響を受けない、“絶対的最低基準”が必要になったといえます。まさに、“混沌Cの発生”です。
 

(4) “絶対的最低基準”の模索――その1

 
 配属に際しての組立係への“絶対的最低基準”としての第1候補は、N年度の組立係配属者で問題なしとされた3人のうちの最低合計点です。ただ、この値を採用するには、問題がなかった(N-1)年度の配属者6人のうちの最低点が924を下回ってはいけないのです。そこで、(N-1)年度の配属者6人のうちの最低得点者No.38の合計点を調べたところ、858と無視できないレベルで下回っていたのです。念のため、(N-1)年度におけるNo.38の状況を組立係長に確認しましたが、むしろ中の上の評価でした。それでは、この値858を採用できないかと考えましたが、この値は、今回問題となったNo.11の合計点(867)をわずかではあるが下回っていたのです。こういった検討の結果、合計点は“絶対的最低基準”として採用できないとの結論になりました。
 

(5) “絶対的最低基準”の模索 ―― その2

 
 合計点が絶対的最低基準たり得ないということは、過去採用してきた座標軸“10項目の合計点”は、毎年配属される新入社員の質の水準に大差ないという前提の上に成り立っていたものと考えられます。いわれてみれば、複雑で多面的な要素が要求される“組立作業員”の評価基準を、10項目の評価を十把一絡げにした合計点に頼っていたことがそもそも理不尽であったといえます。そこで、せっかく与えられている情報ゆえ、一歩踏み込んで、そこからより深い情報をくみ取って配属基準に反映するべきということに気づいたのです。そういった観点から10の評価項目の内容に注目し、組立作業者に要求される能力の二本柱である“知覚能”と“運動能”に着眼すると、検査内容から類推して、前者に関わると思われる7項目と後者に関わると思われる3項目の2種類に大別できることに気づいたのです。
 
 要するに今までは、せっかく多面的なデータを得ていながら、合計点という“1次元”で総合評価を下していたのを、“知覚能(7項目の合計点)”と“運動能(3項目の合計点)”という“2次元”での総合評価にレベルアップできそうな見通しを感じたのです。ただ、7項目の合計点と3項目の合計点をそのままで用いると、双方の合計点の大きさに開きがあり過ぎるので、39人のそれぞれの値を偏差値により基準化し、横軸を“知覚能”、縦軸を“運動能”とする2次元座標軸上に組立係配属新入社員12人の位置をプロットしたのが図5-1です。
 
 この図を見ると、組立係長が不合格判定を下した3人(No.11、14、17)だけが、第3...
象限に属している。この結果から、「上述の処理をして、第3象限に位置する者は、組立係へは配属しない」という新基準を手に入れることができました。
 
 
図5-1 組立係配属者の2次元評価図
 
 要するに、我々が求めているものは、従前のような、単純な1次元評価をベースにした“絶対評価基準”では満たし得ず、相対評価でよいから、もっと“多面的な評価基準”であるということに気づいたのです。
 
 次回に続きます。
 
【関連解説:新QC七つ道具】

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