強みは未来志向で設定 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その46)

 
  
 
 前々回からKETICモデルのK(Knowledge)の知識の3つの要素の内、「自社の強み」を解説しています。今回は、「強みは未来志向で設定する」について解説します。
◆関連解説『技術マネジメントとは』
 

1. 「強みの活用」に関する世の中の常識は正しいか

 
 「何事かを成し遂げるのは、強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない。できないことによって何かを行うことなど、到底できない。」これはピーター・ドラッカーの、強みの活用についての有名な言葉です。また近年良く目にするSWOT分析も、自社の強みを明らかにして、その強みを活用しようとするものです。経営論においても、広く自社の強みの活用は、議論の余地なく当然正しいことと理解されています。
 
 しかし、私はこれは半分正しく、半分間違いであると考えています。確かに、強みは極めて重要です。しかし、強みには以下に述べる2つの特徴があり、強みをマネジメントするには、この点を押さえておかなければなりません。
 

(1) 特徴1:強みは初めから用意されているものではない

 
 企業は、その多くはその創業時においては、何の強みもなく起業するものです。例えば、アマゾン。ジェフ・ベゾスがアマゾンを立ち上げた最初から、Eコマースの巨大なプラットフォームを持つなどは無かったのは当然です。アマゾンは、大きな売上を挙げながら、そこで生み出したキャッシュを利用して、ひたすら長期にわたりこのプラットフォームというアマゾンにとってのそのビジネスが依拠する強みを構築することに、多額の投資を行ってきました。
 
 まさに、主体的に「強み」を主体的に行ってきたということです。強みは自らが作り出すもので、「強みは初めから用意されているものではない」ということです。もちろんある分野で強みを持った人間が、起業するということはあります。しかし、その強みが企業を経営する上で十分に強いということはほとんどないでしょう。世の中それほど甘くはありません。その強みの種を更に本当に強みに磨き上げる。加えて、事業で成功するための「その他」の強みも生み出す必要があります。
 

(2) 特徴2:既存の強みは陳腐化する

 
 成熟化という概念があります。例えば、技術は、ある新しい技術の可能性が認識される「揺籃期」から始まり、その技術の可能性かなり明確になってくると、そこに従事する研究者や技術が大きく増える「成長期」を経て、その技術が完成する「成熟期」に至り、更にはその後、その技術の利用余地が減少する「老衰期」を経て、その技術は使われなくなるという道をたどります。
 
 揺籃期から成長期は、上の特徴1で議論した部分ですが、成熟期を経て老衰期に至る部分も強みを考える上で大変重要です。すなわち、「強みはいつかは強みでなくなる」ということです。
 
 例えば、リチウムイオン電池の技術。この技術は日本の旭化成で発明され、その後多くの日本企業がリチウムイオン電池の開発を行いました。15年ぐらい前までは、主要なリチウムイオン電池メーカーはほとんど全て日本企業が占めていました。しかし、その後中国や韓国のメーカーが技術レベルを大幅に向上させました。その技術が競合企業にも拡散していった、すなわち技術が成熟していったということです。そ...
の結果、今ではリチウムイオン電池の主要メーカーの中の日本企業は、パナソニック一社に過ぎません。自社の既存の強みは、いつかは陳腐化するものなのです。
 

2. 強みは未来志向で考える

 
 つまり、企業活動においては、既存の強みは陳腐化するので、既存の強みに安住してはならないということです。したがって、強みは未来志向で設定する、すなわち現状では強くなくても、また自社には無くても、それを将来は自社の強みとすると意思決定し、その後それを真に強みとすべく、戦略的に強化の活動をするということです。
 
 次回に続きます。
 

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