5. クレームが、企業を「顧客満足体質」に変える。
前回のその36に続いて、解説します。
【クレーム対応心得】
- 商品の完成度を高めるのは、技術者でもなく、営業マンでもない。商品を厳しく採点してくれる顧客である。
市場飽和説がマスコミで喧伝されるいま、企業は必死で新製品の開発に取り組んでいます。「顧客ニーズがつかみづらい時代には、とにかく新商品攻勢で顧客のウォンツを掘り起こすしか、方法がないんです」数多くの企業経営者は、真顔で開発の難しさを告白します。
ところが、こうした新商品開発ラッシュは、ときに完成度の低い商品を市場に送り込むことになりかねません。ライバル社に先手を打つために、商品のテストを完璧にやり遂げないうちに市場供給してしまう。
こうした乱暴な新商品開発は、クレームを発生させかねません。メーカーの経営者に私か警鐘を鳴らすと、判で押したように「そうはいっても次々と新商品を作り続けないと、市場から追い出されてしまい、存在理由がなくなってしまうんです」と、自社の取り組みを正当化するのが常です。だが、それほど企業の生存競争が厳しい時代に突入したというのなら、そのときこそ、お客さま相談室に入る情報を最大限に活用すべきなのです。
不完全な新商品を発売すると、相談室にはいろいろなクレーム情報が入ってきます。なかには怒りの頂点で電話をかけてくる顧客もいるでしょう。
しかし、不完全な商品に対して、怒鳴りながら電話をかけてくる顧客の声は、「商品改良のアドバイス」「天の声」「神の声」ではないでしょうか。ファンの声、天の恵みともいえるのです。そう考えると、顧客は商品開発のアドバイザーに等しい「大切な存在」になるはずです。
不完全商品の欠陥を単刀直入に指摘し、自分たちが求めている商品は何なのかを教えてくれる。そのときこそ、企業はクレームという顧客の声に耳を傾けて、商品の欠陥をなくすための「宝物情報」を全力で収集すべきです。そして、顧客から指摘された欠陥をすべて乗り越えた改良品を市場供給すれば、顧客の信頼は回復し、すばやいクレーム対応のプラス評価さえ獲得できるに違いありません。
商品の完成度を限りなく高めていくスペシャリストは自社の技術者でもなく、営業マンでもなく、商品を厳しく採点してくれる顧客であることを強く認識しましょう。また商品やサービスから発生するクレームは非常に個人差があります。同じ商品を使用しているAさんとBさんでは、商品に対する認識や期待が違うので、Aさんの満足がBさんには不満足となり、またその逆もあり得るわけです。
クレーム認識と顧客の知識量は、かなり高い相関関係があることが検証されています。
簡単にいえば、きちんとした論理性を持ってクレームを発信することのできる顧客は商品知識のレベルや期待値、他社の商品知識までも含めて、非常にレベルの高い...
人が多いということになります。なかには、ややマニアックな顧客もいるでしょうが、このような「知識レベルの高い顧客」のクレーム情報は、自社の専門家さえ見逃している高い示唆=気づきを与えてくれるのです。
知識レベルと期待値が高い顧客からのクレームは、一般顧客が気づかない専門的な欠点や改良点を教えてくれる可能性も高く、クレーム内容は、顧客の知識レベルや期待値によって異なってくるという真理を理解して、クレームからの「学習効果」を上げていくことが、非常に大切です。
次回に続きます。
【出典】武田哲男 著 クレーム対応、ここがポイント ダイヤモンド社発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載