【第1章 中国進出での失敗事例】
前回のその2に続いて解説します。
1.3 C社、中国材料採用による不良発生
C社は鉄材の加工をしている会社で、その業界では名の知れた中堅企業です。比較的早くから中国に工場を構えて生産をしていました。中国工場の生産においても、国内工場で使っていた日本製材料を送り込んで使用していました。要するに加工を中国工場で行うことでコストメリットを出していた訳です。ところが顧客からのコストダウン要求が厳しくなってきて、それに対応するためには中国製材料の使用を検討せざるを得なくなってきました。不安はあったものの、結局、中国製材料の使用に踏み切りました。
量産を始めると試作のときにはなかった不具合が中国製材料に含まれていました。この材料の不具合をC社は、自社の生産工程で消化しきれずに自社製品の不具合として顧客に出荷して大きなクレームを出してしまいました。中国製の材料は、日本製の同じ材料に比べるとやはり品質レベルが落ちます。その品質レベルが落ちたものをいかに使いこなすか、企業の力が問われます。
1.4 D社、中国からの撤退事例
D社は、会社の規模としては中小の部類に入る会社です。自社製品の中国内販売も視野に入れて中国に工場進出しました。中国を生産拠点としてだけでなく、市場としても捉えての中国進出だったのです。
中国工場での生産にあたっては、日本製の機械を導入し、日本人技術者を生産指導に就かせましたが、生産開始から8ヵ月後には会社清算を選ばざるを得ない状況になりました。その理由は、中国工場で生産した製品の品質がどうにも悪く、不良品を半年以上生産し続け、経営見通しが立たなかったことにあります。品質がどうしてよくなかったのかは把握していませんが、撤退という経営判断を早めにしたことで傷を浅くすることが出来だのは事実でした。
日本企業の場合、中国を含め海外進出時の計画はしっかり立てる傾向にありますが、どうなったら継続を断念して撤退するのか、これを決めたうえで海外進出している企業はほとんどないと言っていいのではないでしょうか。撤退の判断基準を持っていないので、収支の改善が見込まれない状況にあっても、生産を続ける、つまり経費を無駄に垂れ流しているケースが少なくありません。
中国を含めた海外に工場進出する際は、最悪撤退することも視野に入れて、その判断基準をあらかじめ決めておくことが大事です。特に資金が潤沢ではない中小企業ほど、撤退の判断基準を持つことが必要です。
紹介した事例にあるように中小企業だけでなく、大企業でも中国への工場進出ではトラブルを発生させています。中国への工場進出では、何らかのトラブルは発生するものと考えることです。大事なことは、トラブルを最小限に抑えることと、発生したときに適切に対応することです。本書を読み進めることで、その術を体得してもらえれば幸いです。
【中国工場設立及び撤退フロー】
中国工場設立目的の明確化→設立計画の策定→国内予備調査及び現地調査・工場用地選定→最終意思決定(この時点までに撤退基準も決める)
→現地法人設立→工場建設→生産設備輸送及び据え付け→原材料調達→生産開始→工場軌道に乗る
→工場うまくいかず→撤退基準に照らし撤退の決定
【中国異文化コミュニケーション】
中国工場や中国の取引先と仕事をするためには、技術的なスキルだけがあってもうまくいきません。結局は、現地中国人に仕事を覚えてもらいやってもらわなくてはならないのですから、仕事をうま<進めるためには中国人とうまくコミュニケーションを取ることが必要です。そのためには、中国とはどんなところなのか、中国人はどんな人だちなのかを知っ...
ておくとよいでしょう。できれば事前にそれらを知ってから中国に行った方が中国人に対する理解が早くなりますし、余計なことで悩まなくて済みます。失敗も経験のうちと言うように経験も大事ですが、取り返しのつかない失敗を読者のみなさんにはして欲しくないのです。中国の基本情報は、外務省、ジェトロ等のホームページから最新の情報を参照して下さい。
次回に続きます。
【出典】根本隆吉 著 「中国工場の品質改善」 日刊工業新聞社発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載