【見えてきた、2030年の技術社会 連載目次】
この10年で Disruptive Technology と言われるものが多数出現して、我々の生活を便利にしています。代表格は Google, Amazon, Faceboock, Apple などです。そして今、Uber、電気自動車、自動運転、人工知能、次世代モバイル通信の5Gなどが注目されています。
こういった個々のイノベーションをDisruptiveと呼ぶことはできますが、本当の変革はそれらのイノベーションが融合して爆発的な変化を起こすことにあります。具体的な例を挙げると、自動車業界のパラダイムシフト、地域社会のエネルギーインフラ、情報コンテンツの消費形態などです。
これらの分野を軸に、私が考える今後の10年のイノベーションの形を、何回かのシリーズで解説してみたいと思います。
◆ 自動車業界のパラダイムシフト(前編)
~イノベーションからフュージョンへ~
1. EVが自動運転のプラットホームになる
自動車関連における Disruptive Technologies はもちろん電気自動車 (EV)と自動運転です。しかし、そこには人工知能(AI)、コネクテッドカー (V2V/V2X)、5G、Augmented Reality (AR)、センサーフュージョンなど多数の次世代技術が有機的に融合されています。
図1.TESLA社
2017年にサンフランシスコの南にあるTeslaの工場を見学する機会がありました。秘密保持契約にサインしたうえでの見学なので、具体的なことは公表できないのですが、多くの工程でロボットによる組み立て作業が導入され、ワーカーの数は極端に少ない工場でした。これを可能にする最も大きな要因は電気自動車 (EV)であることです。EVにはエンジンもトランスミッションも排気管もガソリンタンクもありません。シンプルな構造のシャーシにバッテリーパックを敷き詰めれば、平らな床のベースができあがります。そこにモーターとシャフト、タイヤを取り付けて、あとはシートやボディを載せればよいだけです。
EVは自動運転のためのプラットホームになります。GoogleやApple、UberといったIT分野の会社が自動運転を手掛けているのは、プラットホームとなる車体よりも、それをコントロールするシステムの方が付加価値が高いと踏んでいるからです。システムは一つ作れば100万台でも1000万台でもコピーできます。
実際、2019年4月にTeslaが発表した新しいコンピュータは、ニューラルネットワークの新型GPUを搭載していて、フルスペックの自動運転が可能になるということです。4月以降に生産されるすべてのTesla車にはこの新型コンピュータが搭載されており、すでにユーザーが持っているTesla車は順次ボードの交換をするとのことです。
米国ではすでに多くのEVが販売されていて、都市部を中心に充電ステーションの設置も進んでいます。図2は、2018年に米国で販売されている電気自動車です。
図2.アメリカで販売されている電気自動車
2. センサーフュージョン
自動運転を実現するためには、多くのセンサーが使われます。ミリ波レーダー、LiDAR、カメラ、超音波近接センサー、GPS、加速センサー、慣性航法などを組み合わせて周囲の状況をリアルタイムに...
図3.自動運転に使われるセンサー
実際に、現行のTesla Mosel S には8台のカメラと1台のレーダー、そして車体の周囲に超音波センサーを装備しています。しかし、8台のカメラのうち現時点で使っているのは2台のみだということです。Teslaによると、搭載されている全てのセンサーを使うことでLevel3の自動運転が可能だが、現状の交通法規では自動運転が許可されていないので使っていないだけなのだそうです。法規面で可能になった時点で、ユーザーの要望があれば自動運転の機能をアクティベーションできるということです。
自動車業界のパラダイムシフト、後編に続きます。