すべり系と最密充填構造 金属材料基礎講座(その4)

 

【目次】

     

    1. すべり系

    金属が曲げや圧延などの応力を受けて塑性(そせい)変形を起こすためには金属原子の移動が必要です。この時、金属原子は単に応力方向に従って無秩序に不規則に移動しているわけではありません。金属原子の移動には必ず規則性と方向性があります。それが金属のすべりと呼ばれる現象です。

    すべりには、金属原子が移動する面を表したすべり面と、移動する方向を表したすべり方向があります。そして、すべり方向とすべり面を合わせてすべり系と呼びます。金属は主に体心立方格子、面心立方格子、稠密六方格子の結晶構造を取りますが、いずれの結晶構造でもそれぞれ特有のすべり系が存在します。図1に各結晶構造の代表的なすべり系の数とすべり面を赤面で示し...

    ます。すべり系の数が多い体心立方格子と面心立方格子は変形しやすい材料、加工しやすい材料と言えます。しかし、稠密六方格子はすべり系の数が少ないため変形しにくい材料、加工しにくい材料と言えます。

     図1. 各結晶構造の代表的なすべり面とすべり系の数

    2. すべり系と最密充填構造

    すべり面というのは金属原子が移動する面のため、出来る限り動きやすい面であることが好ましいです。金属原子を球体と考えた場合、各結晶構造で金属原子が最も密に詰まった面がすべり面となります。図2には各結晶構造のすべり面を示しました。体心立方格子には最密充填面はありませんが、そのなかでも最も金属原子が密接な面がすべり面になります。面心立方格子と稠密六方格子は最密原子面がすべり面になります。そしてすべり方向も同様に最密原子面に沿っています。

     図2. 各結晶構造の代表的なすべり面

    図3に各すべり面におけるすべり方向を矢印で示します。面心立方格子と稠密六方格子のすべり方向は同じになります。面心立方格子はこの平面だけでなく、紙面の斜め上または斜め下方向にも同様に最密充填構図が存在するために色々な方向にすべりが起きます。

     図3. すべり面とすべり方向の関係

    そのため、面心立方格子の金属は加工性が良いのです。反対に稠密六方格子はこの紙面上のすべりのみで、面心立方格子のように上下方向にはほとんどありません。そのため、すべりが起きずらく加工性も悪いのです。体心立方格子も結晶構造の斜め方向にすべり系があるため加工性はあります。すべり面が最密充填構造ではないため、すべりを起こす応力が面心立方格子よりも大きくなります。そのため、鉄のように硬く強い材料となるのです。しかし、ひとたび塑性加工が起きると伸びはあります。

     次回に続きます。

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