異方性とは?材料の例や注意点などを解説

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異方性とは?材料の例や注意点などを解説


機械や構造物に用いる材料の特性を表す言葉のひとつに「異方性」があります。あまり聞きなれない言葉だという人も少なくないのではないかと思いますが、実は日常生活の中でも誰もが頻繁に経験している現象です。近年ではCFRPをはじめとする複合材料の利用が増えていることもあり、設計や製造の際に異方性に配慮する必要が高まっています。異方性とは何か?材料の例や注意点などを解説します。

【目次】


    異方性とは

    異方性とは、一般に物質や空間の物理的性質が方向によって異なることを指す言葉で、非等方性ともいいます。材料における異方性とは方向によって強度などの力学的特性が異なることで、そのような性質を持つ材料のことを異方性材料と呼びます。また、磁気特性、電導性、伝熱性、熱膨張、光学特性などの物理的性質においても、異方性を示す材料が存在します。このような材料の異方性は、化学的組成が一様でない材料や、一様であっても結晶構造を持つ材料に見られます。
    機械や構造物の設計における異方性材料とは、縦、横、厚さの方向によってそれぞれ固有のヤング率ポアソン比を持つ材料のことです。

    等方性とは

    等方性とは、一般に物質や空間の物理的性質が方向によって変わらないことを指す言葉です。材料における等方性とは方向にかかわらず強度などの力学的特性が変わらないことで、化学的組成が一様で非晶質の材料は一般に等方性があります。そのような性質を持つ材料のことを等方性材料と呼び、一般的な金属や樹脂などが該当します。

    異方性を持つ材料の例

    機械や構造物などに使われる材料では、繊維強化プラスチック(CFRP、GFRP等)、木材、鉄筋コンクリートなどが代表的な異方性材料です。
    日常生活でよく経験するのは木材の異方性です。木材は向きによって強度が違い、割れやすい方向と割れにくい方向があります。これは木が成長する方向とその垂直方向で力学的特性が違い、せん断破壊が一定方向だけに起きやすいことが原因です。そのため木材を使って建築物や木工品などを作る場合には、木目の向きに注意して材料取りを行います。また、木材の異方性を利用した身近な例が割箸、異方性を打ち消すために木材を異なる向きに重ね合わせる工夫をしたのがベニヤ合板などの合板です。
    機械や構造物などで使用が広がっているCFRP、GFRPなどの繊維強化プラスチックでは、物理的特性が繊維の向きによって変化します。繊維の長手方向の強度が高いのに対して、繊維を横切る方向の強度は相対的に低くなります。そのため、部品への荷重のかかり方をよく考慮して、材料の選定や繊維の入れ方を決定する必要があります。

    金属板材の異方性を現す「r値」とは

    一般には等方性材料の金属材料においても、圧延などの加工によって異方性が生じる場合があります。
    板材における材料の異方性を現す数値としてr値(ランクフォード値)があり、主に金属のプレス加工(絞り加工)における材料特性を示すものとして使用します。引張試験でX方向に伸ばした時のY方向とZ方向の寸法変化量の比がr値です。この値がr=1ならば等方性で、r≠1ならば板厚異方性があるといいます。
    板材から引張試験片を採取する方向による性質の違いを面内異方性といい、各方向のr値(r0、r45、r90)から次の式で現されます。

     ⊿r=(r0+r90)/2-r45 

    また、板厚異方性は次の式で求められます。

     板厚異方性=(r0+r90+2・r45)/4

    面内異方性が小さく板厚異方性が大きいほうが、一般的にプレス加工に有利な材料です。

    材料ごとのr値の一覧

    材料 r0 r45 r90 r ⊿r
    Alキルド鋼  1.68 1.19 1.9 1.49 0.6
    チタン 4 5.49 7.05 5.51 -
    銅 O材 0.9 0.94 0.77 0.89 -0.1
    銅 1/2H材 0.76 0.87 0.9 0.85 -0.04
    A1100-O材 0.6 0.53 0.94 0.65 0.24
    A1100-H24 0.41 1.12 0.81 0.87 -0.51
    SUS304 1.02 1.19 0.98 1.1 -0.19
    黄銅2種 O材 0.94 1.12 1.01 1.05 -0.14
    黄銅3種1/4H材 0.94 1 1 0.99 -0.03

     

    異方性について正しく理解しておくことが大切

    ここまで述べてきたように、異方性を持つ材料は方向によって強度などの材料特性が異なるため、機械や構造物に使う方...


    異方性とは?材料の例や注意点などを解説


    機械や構造物に用いる材料の特性を表す言葉のひとつに「異方性」があります。あまり聞きなれない言葉だという人も少なくないのではないかと思いますが、実は日常生活の中でも誰もが頻繁に経験している現象です。近年ではCFRPをはじめとする複合材料の利用が増えていることもあり、設計や製造の際に異方性に配慮する必要が高まっています。異方性とは何か?材料の例や注意点などを解説します。

    【目次】


      異方性とは

      異方性とは、一般に物質や空間の物理的性質が方向によって異なることを指す言葉で、非等方性ともいいます。材料における異方性とは方向によって強度などの力学的特性が異なることで、そのような性質を持つ材料のことを異方性材料と呼びます。また、磁気特性、電導性、伝熱性、熱膨張、光学特性などの物理的性質においても、異方性を示す材料が存在します。このような材料の異方性は、化学的組成が一様でない材料や、一様であっても結晶構造を持つ材料に見られます。
      機械や構造物の設計における異方性材料とは、縦、横、厚さの方向によってそれぞれ固有のヤング率ポアソン比を持つ材料のことです。

      等方性とは

      等方性とは、一般に物質や空間の物理的性質が方向によって変わらないことを指す言葉です。材料における等方性とは方向にかかわらず強度などの力学的特性が変わらないことで、化学的組成が一様で非晶質の材料は一般に等方性があります。そのような性質を持つ材料のことを等方性材料と呼び、一般的な金属や樹脂などが該当します。

      異方性を持つ材料の例

      機械や構造物などに使われる材料では、繊維強化プラスチック(CFRP、GFRP等)、木材、鉄筋コンクリートなどが代表的な異方性材料です。
      日常生活でよく経験するのは木材の異方性です。木材は向きによって強度が違い、割れやすい方向と割れにくい方向があります。これは木が成長する方向とその垂直方向で力学的特性が違い、せん断破壊が一定方向だけに起きやすいことが原因です。そのため木材を使って建築物や木工品などを作る場合には、木目の向きに注意して材料取りを行います。また、木材の異方性を利用した身近な例が割箸、異方性を打ち消すために木材を異なる向きに重ね合わせる工夫をしたのがベニヤ合板などの合板です。
      機械や構造物などで使用が広がっているCFRP、GFRPなどの繊維強化プラスチックでは、物理的特性が繊維の向きによって変化します。繊維の長手方向の強度が高いのに対して、繊維を横切る方向の強度は相対的に低くなります。そのため、部品への荷重のかかり方をよく考慮して、材料の選定や繊維の入れ方を決定する必要があります。

      金属板材の異方性を現す「r値」とは

      一般には等方性材料の金属材料においても、圧延などの加工によって異方性が生じる場合があります。
      板材における材料の異方性を現す数値としてr値(ランクフォード値)があり、主に金属のプレス加工(絞り加工)における材料特性を示すものとして使用します。引張試験でX方向に伸ばした時のY方向とZ方向の寸法変化量の比がr値です。この値がr=1ならば等方性で、r≠1ならば板厚異方性があるといいます。
      板材から引張試験片を採取する方向による性質の違いを面内異方性といい、各方向のr値(r0、r45、r90)から次の式で現されます。

       ⊿r=(r0+r90)/2-r45 

      また、板厚異方性は次の式で求められます。

       板厚異方性=(r0+r90+2・r45)/4

      面内異方性が小さく板厚異方性が大きいほうが、一般的にプレス加工に有利な材料です。

      材料ごとのr値の一覧

      材料 r0 r45 r90 r ⊿r
      Alキルド鋼  1.68 1.19 1.9 1.49 0.6
      チタン 4 5.49 7.05 5.51 -
      銅 O材 0.9 0.94 0.77 0.89 -0.1
      銅 1/2H材 0.76 0.87 0.9 0.85 -0.04
      A1100-O材 0.6 0.53 0.94 0.65 0.24
      A1100-H24 0.41 1.12 0.81 0.87 -0.51
      SUS304 1.02 1.19 0.98 1.1 -0.19
      黄銅2種 O材 0.94 1.12 1.01 1.05 -0.14
      黄銅3種1/4H材 0.94 1 1 0.99 -0.03

       

      異方性について正しく理解しておくことが大切

      ここまで述べてきたように、異方性を持つ材料は方向によって強度などの材料特性が異なるため、機械や構造物に使う方向を誤ると強度が不足し、破損や変形などの不具合を起こす恐れがあります。部品や部材には最も大きな荷重の他に、他方向から加わる微小な力が作用する場合が多くあります。ここで一般的な金属や樹脂では等方性のため、最も大きな荷重方向の要件を満たせば他方向の微小な力は問題になりませんが、異方性がある材料ではたとえ微小な力でも影響が生じることがあるので注意が必要です。
      逆に異方性にうまく配慮した材料の使い方をすれば、より合理的な設計や製造を行うことも可能です。部品や部材への荷重方向に特化した、また前章で述べたような加工のしやすさに配慮した材料の方向選定によって、軽量化やコスト削減などを実現することができます。
      CFRPやGFRPなど繊維強化プラスチックでは、異方性を意識して繊維の積層を最適化する積層設計という過程があります。積層の工夫次第では、等方性を持った材料の様に振る舞う擬似等方性を得ることも可能です。

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      異方性についてのまとめ

      異方性とは方向によって材料の強度などの力学的特性が異なることで、化学的組成が一様でない材料や、一様であっても結晶構造を持つ材料に見られます。そのような性質を持つ材料のことを異方性材料と呼び、繊維強化プラスチック(CFRP、GFRP等)、木材、鉄筋コンクリートなどが代表的です。
      異方性を持つ材料は方向によって強度などの材料特性が異なるため、設計や製造の際には注意が必要です。逆に異方性にうまく配慮した材料の使い方をすれば、より合理的な設計や製造を行うことも可能です。

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      この記事の著者

      嶋村 良太

      商品企画・設計管理・デザインの業務経験をベースにした異種技術間のコーディネートが得意分野。自身の専門はバリアフリー・ユニバーサルデザイン、工業デザイン、輸送用機器。技術士(機械部門・総合技術監理部門)

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