◆水素エネルギー社会 連載目次
- 1. 燃料電池自動車開発
- 2. 船舶の次世代エネルギー源
- 3. 燃料電池自動車開発競争
- 4. 東レ ~ FCV用CF増産、航空機からシフト
- 5. 炭素繊維の地域ごとにおける消費用途の差
- 6. 水素協議会
- 7. JR東日本、水素燃料車両の開発・試験
- 8. ドイツの燃料電池鉄道車両とは
- 9. 低炭素社会とは
- 10. 水素の安全性 1
- 11. 水素の安全性 2
- 12. 水素社会への潮流
写真:在りし日の富士山頂レーダー(出典:気象庁ウェブサイト)
♦ 用途広がる水素とその特徴
私は社会人としての最初の仕事が、マイクロ波真空管の開発・製造でした。埼玉県の新日本無線です。半導体の会社だと思って入社したところ、まさかの真空管部門への配属でした。
その時まで、この世の中でまだ真空管が使われているとは知りませんでした。主たる用途は防衛レーダー向けです。富士山頂のレーダーにも使われていましたが、気象レーダーは気象衛星に置き換わりました。その後、10年ほどでトヨタに転職しましたが転職直前は地対空ミサイルのパトリオット関連のレーダー用途でした。今はPAC3に進化してます。なお、防衛省ではパトリオットではなく、ペトリオットと呼んでます。
さて、ここで水素の登場です。真空管ですから当然、漏れがあってはいけません。漏れの有無の検査、リークテストに水素を使用します。
正確には、普段はヘリウムガスを使ってますが、高感度を必要とする際に水素混合ヘリウムガスを使用します。真空管内部を検査装置に取り付けて真空とします。真空管の各部に外部から水素ガスを近づけます。漏れがあると検査装置内に水素(あるいはヘリウム)ガスが侵入し、質量分析器の原理で検知して信号を出すという検査です。
水素は、元素表の一番最初に出てくるように、もっとも軽い、すなわち原子サイズの小さな物質です。ごくわずかは隙間から浸透することができます。このためにリークテストに利用するのですが、これは同時に、水素タンクにわずかな隙間があれば容易に漏れてしまうこととなります。
容易に漏れはするものの、単位時間当たりの漏れ量はこれまたごく微量です。また、きわめて軽い気体ですので、上昇して容易に排出されます。仮に、漏洩(ろうえい)した水素を貯めようとすると、かなりの密閉構造とする必要があります。よって、燃料電池自動車としてのリーク問題は無視できるレベルです。
燃料電池自動車の安全性としては、車両火災の際の爆発も気になるところです。
...以前、樹脂製ガソリンタンクの開発に関係していたことがあり、車両火災を模した火炎暴露試験を見学しました。オイルパンに入れたガソリンを燃焼させ、ガソリンタンクをあぶる試験です。
なかなかにドキドキものです。水素タンクにも同様の試験規格があり、安全性を担保するようになっています。当然、この規格を満足するように、各メーカーはタンク構造にそれなりの工夫をしてます。
次回は、 水素の安全性 2です。
【出典】技術オフィスTech-T HPより、筆者のご承諾により編集して掲載