現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」について解説しています。前回は「協調」について考えましたが、今回は「類似」についてお話致します。
1.「類似」によるアナロジー発想
世の中のイノベーション発想の例に、類似したものの解決策を利用して、すなわちアナロジー発想から、イノベーションを実現している例が数多くみられます。
2021年3月の日本経済新聞朝刊「私の履歴書」は、世界的な編み機メーカー・島精機製作所(和歌山県)会長の島正博氏を対象としていました。その連載の中に、同氏がたまたま訪問した印刷機メーカーで、その後のイノベーションに直結する「類似」を発見した記述があります。
同氏は、印刷機の基本原理である色の三原色(シアン、マゼンタ、イエロー)の中に、編み機の「ニット」、「タック」、「ミス」の三つの機能との類似性を見出し、その着想からニット業界に革命をもたらす編み機を開発しました。
実は島氏は、それ以前にもこのアナロジー発想で、画期的なイノベーションを創出しています。もともとは、島精機は手袋の一体編み機のメーカーであったのですが「なるほど手首の部分を衿(えり)に、人差し指・中指・薬指の指3本分を胴体、親指と小指を両方の袖(そで)に見立てればセーターと同じ形になるな」(日本経済新聞2021年3月16日)と考え、アパレルの一体編み機を生み出していました。
2.なぜ「類似」によるアナロジー発想はイノベーション創出に有効なのか
世の中には森羅万象(しんらばんしょう)があるのですが、それらの間には、遠くに離れたものを含め必ずといってよいほど、他との共通する類似性を持ちます。なぜなら全てのものは何かしらのカテゴリー、それも多数の複数のカテゴリーで分類することができるからです。つまり、あるものは、遠く離れたものとの類似性を持つ可能性が極めて高いことになります。
加えて、その結果が現代社会にも貢献するような人類の高度な知的活動は、少なくとも数千年続いていると考えることができます。人類の人口は、数千万人(西暦元年には2千万~4千万人の人口がいたと想定されています)から現在の80億人までいました。
これらの数多くの人間により、長い人類の歴史の中で、地球上の様々な場で大小様々なイノベーションが起こってきましたし、今も起こっています。
この2つの点から、現時点においても、膨大な未活用のイノベーションの蓄積があちこちに存在し、またその蓄積は日々拡大しています。その結果、現在気が付いていない、またかけ離れた遠い場に存在する大小様々なイノベーションにより、皆さんの周辺でPainの解決やGainを創出できる可能性は相当あると考えることができるからです。
ここで「かけ離れた遠い場に存在する大小様...
次回はどのようにしたら「類似」によるアナロジー発想を促進できるのかを、具体的な仕組みの面から考えてみたいと思います。