微生物腐食とは:金属材料基礎講座(その74)

 

金属表面に微生物が付着することで、表面に酸素や水分が閉じ込められ、腐食が進行しやすくなり、微生物が生成する酸や有機酸が表面を腐食させることもあります。このように微生物腐食は、微生物が表面に付着して、代謝活動によって電子を移動させることで金属の腐食を引き起こす現象です。この腐食は、金属劣化・損傷を促進し、構造物の寿命を短縮する可能性があり、適切な管理、予防策が必要です。今回は、微生物腐食とは?金属腐食を促進するメカニズムを解説します。

【目次】

    1. 微生物腐食とは

    細菌やバクテリアの活動によって起こる腐食を微生物腐食といいます。微生物腐食と聞くと、微生物が金属を分解するように感じますが、実際は微生物が生成する代謝物で腐食が起こる現象です。

    ◆ 微生物腐食に関係する細菌

    細菌やバクテリアの活動によって起こる腐食を微生物腐食といいます。微生物腐食と聞くと、微生物が金属を分解するように感じますが、実際は微生物が生成する代謝物で腐食が起こる現象です。

     

    細菌は淡水や海水、土壌など普通に存在しています。細菌は酸素の少ない環境で繁殖する嫌気性細菌と酸素の多い環境で繁殖する好気性細菌に大別できます。微生物腐食に関係する細菌として、嫌気性細菌では硫酸塩還元菌、好気性細菌では硫黄酸化細菌、鉄酸化細菌などがあります。好気性細菌は水中有機物の酸素を消費しながら分解しますが、水が汚れて汚泥などが堆積(たいせき)すると、その底部には酸素が行き届かなくなり嫌気性細菌が繁殖しやすくなります。

     

    2. 微生物が金属腐食を促進するメカニズムとは

    嫌気性細菌の硫酸塩還元菌は硫酸イオンから硫黄イオン、硫化水素、硫化水素イオンなどの硫化物を生成します。これら硫化物が鉄と反応して硫化鉄(Ⅱ)[1]などの腐食生成物が生じます。一方、好気性細菌の硫黄酸化細菌は硫化水素や硫黄から硫酸を生成します。この硫酸が鉄を腐食します。その様子を図1に示します。

     

    図1.微生物腐食

     

    嫌気性細菌が硫化水素を生成し、好気性細菌が硫化水素を原料とするので、両者が共存すると大きな微生物腐食が起こります。微生物腐食の対策としては殺菌が有効なため、次亜塩素酸ナトリウムの継続的な添加が有効です。しかし次亜塩素酸ナトリウムは酸化剤のため添加量を多くしてしまうと、他の腐食を引き起こす可能性があります。

    ◆ 微生物が金属腐食を促進するメカニズムの事例

    ① バイオフィルム形成

    金属表面にバイオフィルムを形成した微生物が、金属表面を保護する酸素を遮断することで腐食を促進する。

    ② 酸化還元反応

    金属表面で酸素を還元し微生物が、金属イオンを生成することで腐食を引き起こす。

    ③ 金属イオンの吸収

    金属イオンを吸収して成長した微生物が、金属表面の腐食を促進する。

    ④ 電子伝達

    微生物の一部は金属表面に付着し、電子...

    を取り込んで金属イオンを生成して腐食を促進する。

    ⑤ 酸性物質の生成

    微生物の代謝過程で生成された酸性物質が、金属表面のpHを下げることで腐食を促進する。

     

    次回に続きます。

    【用語解説】

    [1]硫化鉄(Ⅱ):硫化鉄(II)(りゅうかてつ(II)、Iron(II) sulfide)は、組成式 FeS の無機化合物である。粉末の硫化鉄(II)は自然発火性物質である。硫黄と鉄とを反応させると得られる(引用:Wikipediaから、https://ja.wikipedia.org/、最終更新 2020年5月10日  )。

     

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