鉄-炭素系状態図:金属材料基礎講座(その94)

 

 

◆ 鉄-炭素系状態図

 鉄の特徴として温度によって結晶構造が変化する性質があります。912℃以下の温度では体心立方格子です。この時の鉄をフェライト(α鉄)と呼びます。912℃から1394℃までは面心立方格子です。この時の鉄をオーステナイト(γ鉄)と呼びます。1394℃から融点の1538℃までは再び体心立方格子(δ鉄)になります。

 鉄鋼材料を扱う時に最も重要な元素は炭素です。鉄は炭素(コークス)によって還元されるので、鉄の中に炭素が合金元素として入り込まれます。そして鉄は炭素量によって強度や硬さなどの性質が大きく変化します。そのため鉄と炭素の関係性を扱うために鉄-炭素系状態図が重要になります。鉄-炭素系状態図を図1に示します。

 

図1.鉄-炭素系状態図(鉄炭素平衡状態図)

 

 本来状態図は合金元素100%まで描くのですが、鉄-炭素系状態図の場合、炭素量7%程度までを描いた状態図が多く見られます。これは炭素量7%以上になると実用材料としてほとんど使用されないことや、黒鉛と鉄が分離してしまうことなどが理由です。また鉄-炭素系状態図には鉄と炭素(グラファイト)、鉄と鉄炭化物のFe3C(セメンタイト)の2種類を表すことが多いです。

 図1では赤の実線を鉄とセメンタイト、青の点線を鉄とグラファイトを表します。鋼の熱処理では赤の実線で表した鉄とセメンタイトの状態図として扱うことが多いです。鉄-炭素系状態図は包晶反応、共晶反応、共析反応を含む複雑な状態図です。

 また鉄の分類として、炭素量約2%以下(オーステナイトの最大炭素固溶量以下)の鉄を「鉄鋼」、それ以上の炭素量を含む鉄を「鋳鉄」と呼んで区別しています。鉄鋼は炭素量によって強度などの特性が変化し、焼入れによって大きく強度が増加します。鋳鉄は融点が低く、主に鋳物に使用されます。

 

 鉄-炭素系状態図において特筆すべき反応がいくつかあります。

 まずはオーステナイトからフェライトとセメンタイトに変態する共析反応727℃、0.76%C(温度、組成はセメンタイトの表示)です。これはA1変態とも呼ばれます。次にオーステナイトからフェライトが析出するA3線、オーステナイトからセメンタイトが析出するAcm線もよく扱われます。鉄鋼の中でも共析組成の炭素量0.76%を共析鋼、0.76%以下の炭素量の鉄鋼を亜共析鋼、0.76%以上の炭素量の鉄鋼を過共析鋼と呼びます。

 共析鋼をオー...

ステナイト温度からA1以下の温度に下げるとフェライトとセメンタイトの共析反応が起こります。この共析反応の金属組織はフェライトとセメンタイトが層状に並んだ組織が現れます。これは肉眼では真珠(パール)のように見えたことからパーライトと呼ばれます。なお亜共析鋼ではフェライトとパーライトの混合組織、過共析鋼ではセメンタイトとパーライトの混合組織が見られます。

 

 次回に続きます。

 

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