自社の技術知識を強化・拡大するための『TCAS』モデルとは

 革新的テーマのスパーク(新結合)には「市場知識」「技術知識」「自社の強み」の3つの原料が必要とされます。

 研究開発に携わる人たちにとっては、「技術知識」は、「市場知識」に比べ、遥かに詳しいうえ、新しい技術に対する感度が高いでしょう。しかし、革新的なテーマを継続的に創出するためには、「技術知識」も個人的、組織的に継続的に強化していく必要性があります。

 「技術知識」には、周辺技術を含め既に自社が保有する技術知識と、自社が保有していない技術知識があります。前者は既に社内に相当の基盤があり、その延長線上で強化を考えればよいものですが、自社が保有していない技術知識についても、普段から広く集めておく姿勢があるかないかで、スパークが起こる可能性が大きく変わるといえます。

◆関連解説『ステージゲート法とは』

 

1.自社周辺技術知識の強化・拡大モデル『TCAS』とは

 自社の技術を強化する方向性を示すモデルにTCASがあります。TCAS4つの要素から構成されます。

(1)発信(Transmit

 「技術知識」を拡大させる際に重要なのは、自社にみえる技術情報だけでなく、その外にある、気づいていない情報や知見を積極的に集めることです。そのためには、自社の技術や事業に関わる情報を主体的に『発信』することが重要です。発信することによって、外部からの自社技術についての問い合わせが増え、自社の技術知識を拡大できるからです。

(2)収集(Collect

 『収集』は文字通り、技術情報を収集し拡大するための活動です。収集には主体的な情報収集に加え、発信に対する問い合わせなどの受信によって、技術知識を増やす方法も含まれます。

(3)活動(Act

 『活動』とは、既存の技術や上で収集した新しい技術を、実際の研究開発や製品開発に活かすことです。このような活動を行うことで、その技術を更に発展させ新しい技術を創出し、また個人や組織に中にその技術を定着させることができます。

(4)共有(Share

 『共有』は、「収集」「活動」で得られた技術知識を、組織横断的に共有するための活動です。社内において、個人や組織単位では技術のレベルには当然ばらつきがありますが、組織横断的に平準化し、高めることが目的です。

 『共有』についてさらに詳しく見てみましょう。

 

2.自社技術知識を『共有』するための2つの方向性

 自社保有技術知識の共有化には、ある特定の自社の要素技術を社内横断的に『関係部門間』・『該当研究者・技術者間』で共有・強化するものと、社内にある要素技術を従来関連のなかった部門や研究者・技術者にも広く知らしめ共有化するものの2つがあります。

(1)『関係』部門間/該当研究者・技術者間で共有・強化する

 このような技術の共有化の仕組みの例として、東レの「要素技術連絡会」があげられます。東レでは、自社の技術を「基幹技術」、「共通技術」、「新要素技術」の3分野、合計14の要素技術について技術毎に連絡会を開催しています。

 具体的な活動としては、自社の技術力の他社比較分析や社内のシンポジウム・勉強会・自主講座の開催、大学との交流の促進、自社の技術施策への提言などを行なっています。このような自社の技術の共有・強化については、他に村田製作所の戦略的技術プログラム(STEP)、3Mのテクニカルフォーラムなどが知られています。

(2)従来『関連のない』部門間/該当研究者・技術者間で共有・強化する

 「縦割りの研究開発体制に横ぐしを刺し、組み合わせの論理で面白い製品やサービスを生み出したい」(日本経済新聞201429日朝刊)。これは三菱ケミカルの...

小林喜光社長の言葉です。

 企業が大きくなればなるほど、自社の技術は各部門間の壁に阻まれ共有化は難しくなりますが、それらを組み合わせることで、それまで想定していなかった新しい製品を生み出すことができます。

 具体的には、社内の技術内覧会を実施する、各部門の持ち回りで自部門技術の紹介の場を設ける、外部向け自社技術の紹介の対象に自社内も含めて考える、更には研究者や技術者をこの目的のためにローテーションするといった方法が考えられます。

 企業は、現在取り組んでいるテーマに関連する活動には大きなエネルギーを割きますが、生み出した後の技術については関心が薄いものです。しかし既に自社にある技術を活用する余地は大きく、3Mのように、革新的テーマ創出の頻度を高めるために上のTCASモデルを主体的に運営するという活動は、自社技術知識の強化において大変重要といえます。

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