工業デザインとは?プロダクトとデザインの違い、プロセスなどを紹介

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工業デザインとは?プロダクトとデザインの違い、プロセスなどを紹介

【目次】

    私たちが製品を選ぶポイントとしてさまざまな要素がありますが、デザインの良さは大きなポイントです。多くのヒット商品は、デザイン性の高さがひとつの売りになっています。今回は、工業デザインの解説です。

     

    1. 工業デザインとは

    英語の「design」という言葉、本来は製品やサービスを設計する行為全般を指しますが、ここで述べる「デザイン」は、その中でも特に視覚をはじめとする人間の感覚に訴える価値を創造する行為を意味します。

     

    デザインという行為の対象は多岐にわたりますが、工業製品のデザインを工業デザインもしくはプロダクトデザインと言い、デザインする人を工業デザイナーもしくはプロダクトデザイナーと言います。

     

    工業製品は私たちの身の回りにあふれていますが、優れた工業製品には人間の感覚に訴えるデザインと使いやすさの工夫があります。また建物も、建てられる環境や用途に調和して心地よさを演出する内外観のデザインが重要です。

     

    ここで注意しなければならないのは、デザインとはただ単に製品の見栄えを良くすることではなく、人間の感覚に寄り添うことで製品の機能や使いやすさ・心地よさを実現するのが真の目的である、ということです。よく「デザインはいいが機能がなっていない」というフレーズを聞きますが、そのようなデザインは真に優れたデザインとは言えません。

     

    そこで、機構・機能を考える設計者とデザイナーが情報を密にやりとりし、製品開発の目標やさまざまな要件を共有することが重要になってきます。「中身のことは設計さんにお任せ」「外観のことはデザイナーさんにお任せ」では、決して優れた製品は生み出せません。

     

    機能性とデザインの価値を高度に両立した製品を追求し、多様化する一方のニーズに対応するのが工業デザインの使命であり、デザイン工学という技術体系の存在意義でもあるのです。その意味で、優れたデザイナーはアーティストである以前に技術者である、またそうあるべきだと私は考えています。

     

    実際のデザインは、今日では多くの場合CADと呼ばれるソフトウェアを使って設計します。この技術は、複雑な流線型のラインなどがソフトで描け、自由に回転させて反対側の側面を映し出したり、内部機構との位置関係を参照したりでき、また修正、拡大縮小も自由自在にできることから、今や工業デザインのツールとして欠かせないものです。

     

    今後は、環境保護に配慮したデザイン、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れたデザインへの対応が必要です。デザインの美しさだけでなく、社会の動きや環境問題などの持続可能性に対応したデザインを考えていくことが重要な課題となっています。

     

    (1) デザインとは何か

    デザインとは、形や色、機能を通じてアイデアやメッセージを視覚的に表現するプロセスです。単なる見た目の美しさだけでなく、使いやすさやユーザー体験を考慮した創造的な解決策を提供します。デザインは、グラフィック、プロダクト、インテリア、ファッションなど多岐にわたり、文化や社会の影響を受けながら進化します。良いデザインは、視覚的な魅力だけでなく、感情や思考を喚起し、コミュニケーションを促進します。つまり、デザインは人々の生活を豊かにし、問題解決の手段でもあるのです。

     

    (2) 工業デザイナー・プロダクトデザイナーとは

    業デザイナーとプロダクトデザイナーは、似たような分野で働いていますが、焦点やアプローチに違いがあります。

    • ① 工業デザイナー・・・工業デザイナーは、主に大量生産される製品のデザインを担当します。機能性、製造プロセス、材料、コストなどを考慮しながら、製品の形状や使い勝手を設計します。
    • ② プロダクトデザイナー・・・プロダクトデザイナーは、特定の製品やサービスのデザインに焦点を当て、ユーザー体験やブランドのアイデンティティを重視します。見た目や使いやすさ、ユーザーとのインタラクションを重視することが多いです。

     

    ◆ 工業デザイナー・プロダクトデザイナーが活躍する場面

    • ① 工業デザイナーの活躍する場は、自動車産業・家電製品・工業機械・消費財(例:家具、日用品など)です。
    • ② プロダクトデザイナーの活躍する場は、スタートアップや新製品開発・テクノロジー企業(アプリやウェブサービスのデザイン)・ファッションやアクセサリー・インテリアデザインです。

     

    2. 工業デザインが生まれるプロセス

    デザインの制作過程を見てみましょう。 

     

    (1) 形にする前に、製品コンセプトを理解

    企画された製品をデザインする際に、社会や市場の傾向を反映するための市場調査を行います。製品を使う消費者や使用場面など想定される条件を踏まえて、どのようなデザインにするのかを構想します。

     

    (2)工業デザインのアイデアの検討

    製品コンセプトに基づき、ラフスケッチを制作してデザインを検討します。製品機能や使用素材、安全性を考慮して、パーツと全体のデザインを何通りものアイデア図にします。

     

    (3)工業デザインの具現化

    内部機構などの設計要件を織込みながら、デザイン提案としてより精細なスケッチ(レンダリング)、模型、3次元コンピュータグラフィックスなどを制作します。

     

    (4)工業デザインの完成

    デザイン提案に対する評価や設計要件・生産要件などを反映して修正・更新・修正のループを繰り返し、最終デザインを完成します。 

     

    3. 日本の工業デザイン

     

    日本のデザインは工業的なデザインと視覚的なデザインがそれぞれ独自に発展をしてきました。その影響でデザイン教育の現場では、今でもコースが分かれています。

     

    各国で独自の発展を続けたデザインですが、196...

    工業デザインとは?プロダクトとデザインの違い、プロセスなどを紹介

    【目次】

      私たちが製品を選ぶポイントとしてさまざまな要素がありますが、デザインの良さは大きなポイントです。多くのヒット商品は、デザイン性の高さがひとつの売りになっています。今回は、工業デザインの解説です。

       

      1. 工業デザインとは

      英語の「design」という言葉、本来は製品やサービスを設計する行為全般を指しますが、ここで述べる「デザイン」は、その中でも特に視覚をはじめとする人間の感覚に訴える価値を創造する行為を意味します。

       

      デザインという行為の対象は多岐にわたりますが、工業製品のデザインを工業デザインもしくはプロダクトデザインと言い、デザインする人を工業デザイナーもしくはプロダクトデザイナーと言います。

       

      工業製品は私たちの身の回りにあふれていますが、優れた工業製品には人間の感覚に訴えるデザインと使いやすさの工夫があります。また建物も、建てられる環境や用途に調和して心地よさを演出する内外観のデザインが重要です。

       

      ここで注意しなければならないのは、デザインとはただ単に製品の見栄えを良くすることではなく、人間の感覚に寄り添うことで製品の機能や使いやすさ・心地よさを実現するのが真の目的である、ということです。よく「デザインはいいが機能がなっていない」というフレーズを聞きますが、そのようなデザインは真に優れたデザインとは言えません。

       

      そこで、機構・機能を考える設計者とデザイナーが情報を密にやりとりし、製品開発の目標やさまざまな要件を共有することが重要になってきます。「中身のことは設計さんにお任せ」「外観のことはデザイナーさんにお任せ」では、決して優れた製品は生み出せません。

       

      機能性とデザインの価値を高度に両立した製品を追求し、多様化する一方のニーズに対応するのが工業デザインの使命であり、デザイン工学という技術体系の存在意義でもあるのです。その意味で、優れたデザイナーはアーティストである以前に技術者である、またそうあるべきだと私は考えています。

       

      実際のデザインは、今日では多くの場合CADと呼ばれるソフトウェアを使って設計します。この技術は、複雑な流線型のラインなどがソフトで描け、自由に回転させて反対側の側面を映し出したり、内部機構との位置関係を参照したりでき、また修正、拡大縮小も自由自在にできることから、今や工業デザインのツールとして欠かせないものです。

       

      今後は、環境保護に配慮したデザイン、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れたデザインへの対応が必要です。デザインの美しさだけでなく、社会の動きや環境問題などの持続可能性に対応したデザインを考えていくことが重要な課題となっています。

       

      (1) デザインとは何か

      デザインとは、形や色、機能を通じてアイデアやメッセージを視覚的に表現するプロセスです。単なる見た目の美しさだけでなく、使いやすさやユーザー体験を考慮した創造的な解決策を提供します。デザインは、グラフィック、プロダクト、インテリア、ファッションなど多岐にわたり、文化や社会の影響を受けながら進化します。良いデザインは、視覚的な魅力だけでなく、感情や思考を喚起し、コミュニケーションを促進します。つまり、デザインは人々の生活を豊かにし、問題解決の手段でもあるのです。

       

      (2) 工業デザイナー・プロダクトデザイナーとは

      業デザイナーとプロダクトデザイナーは、似たような分野で働いていますが、焦点やアプローチに違いがあります。

      • ① 工業デザイナー・・・工業デザイナーは、主に大量生産される製品のデザインを担当します。機能性、製造プロセス、材料、コストなどを考慮しながら、製品の形状や使い勝手を設計します。
      • ② プロダクトデザイナー・・・プロダクトデザイナーは、特定の製品やサービスのデザインに焦点を当て、ユーザー体験やブランドのアイデンティティを重視します。見た目や使いやすさ、ユーザーとのインタラクションを重視することが多いです。

       

      ◆ 工業デザイナー・プロダクトデザイナーが活躍する場面

      • ① 工業デザイナーの活躍する場は、自動車産業・家電製品・工業機械・消費財(例:家具、日用品など)です。
      • ② プロダクトデザイナーの活躍する場は、スタートアップや新製品開発・テクノロジー企業(アプリやウェブサービスのデザイン)・ファッションやアクセサリー・インテリアデザインです。

       

      2. 工業デザインが生まれるプロセス

      デザインの制作過程を見てみましょう。 

       

      (1) 形にする前に、製品コンセプトを理解

      企画された製品をデザインする際に、社会や市場の傾向を反映するための市場調査を行います。製品を使う消費者や使用場面など想定される条件を踏まえて、どのようなデザインにするのかを構想します。

       

      (2)工業デザインのアイデアの検討

      製品コンセプトに基づき、ラフスケッチを制作してデザインを検討します。製品機能や使用素材、安全性を考慮して、パーツと全体のデザインを何通りものアイデア図にします。

       

      (3)工業デザインの具現化

      内部機構などの設計要件を織込みながら、デザイン提案としてより精細なスケッチ(レンダリング)、模型、3次元コンピュータグラフィックスなどを制作します。

       

      (4)工業デザインの完成

      デザイン提案に対する評価や設計要件・生産要件などを反映して修正・更新・修正のループを繰り返し、最終デザインを完成します。 

       

      3. 日本の工業デザイン

       

      日本のデザインは工業的なデザインと視覚的なデザインがそれぞれ独自に発展をしてきました。その影響でデザイン教育の現場では、今でもコースが分かれています。

       

      各国で独自の発展を続けたデザインですが、1960年に世界デザイン会議が東京で開催され、デザインを世界共通の意味として再確認しました。デザインに関係する分野を横断する討議により、東京宣言がされました。人間の権威ある生活の確立のためにあるとデザインが定義されたのです。目に見えないものを相手に伝えることができるデザインは、その強みから、時代の変化に伴って、人々の生活に浸透して、必要不可欠なモノになったのです。   

       

      4. 工業デザインとプロダクトデザインの違い

      工業デザインとプロダクトデザインは似ている部分もありますが、それぞれ異なる焦点や技能が求められます。次の表を参考にしてください。

       

      ◆ 工業デザインとプロダクトデザインの職務の違いとは

      工業デザインとプロダクトデザインの職務の違い、次の表を参考にしてください。

       

      5. まとめ

      工業デザイナーは主に製品の機能性や製造に焦点を当てるのに対し、プロダクトデザイナーはユーザー体験やブランドの視点からデザインを行います。それぞれの専門性に応じて、活躍する場も異なりますが、どちらも重要な役割を果たしています。

       

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      この記事の著者

      嶋村 良太

      商品企画・設計管理・デザインの業務経験をベースにした異種技術間のコーディネートが得意分野。自身の専門はバリアフリー・ユニバーサルデザイン、工業デザイン、輸送用機器。技術士(機械部門・総合技術監理部門)

      商品企画・設計管理・デザインの業務経験をベースにした異種技術間のコーディネートが得意分野。自身の専門はバリアフリー・ユニバーサルデザイン、工業デザイン、輸...