製品の生産や使用の過程での事故・不具合などトラブルの多くは、さまざまなヒューマンエラーが原因となって発生しています。今回は、ものづくりに携わる中でヒューマンエラー対策を行い、トラブルを防止していくための基本となる考え方を解説します。エンジニアリング初心者はもとより広くものづくりに携わる皆さんに、この考え方を再確認していただければと思います。
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1.「私、失敗しちゃった…」
日常生活での忘れ物や落し物、寝坊、遅刻にはじまり、進学や就職・転職(そして何といっても結婚!)などの人生の選択に至るまで、私たちは大小さまざまなヒューマンエラーを繰り返しながら生きています。
何年か前に「私、失敗しないので!」というTVドラマの決めゼリフが流行語になりましたが、それはフィクションの中での話。残念ながら現実の世界では、常に最大限の注意を払ってもヒューマンエラーは発生してしまうものです。人間とはまさに「エラーする生き物」です。そういえばこのTVドラマの少し後に、ヒューマンエラー(「失敗学」)がテーマで「私、失敗しちゃった…」が決めゼリフのTVドラマもありましたね。
2. 重大な事態を引き起こすヒューマンエラー
ものづくりに関わる業務に携わる中で何らかのエラーを起こし、冷汗をかきながらフォローした経験がある読者の方も多いのではないでしょうか。思い出したくもないあの時の気分… そう、あのエラーはもしかしたら大変な事態を引き起こしていたかもしれないのです。
ものづくりの企画、設計、生産、流通、そして製品の運用から廃棄に至るさまざまな段階でヒューマンエラーが発生し、人命や財産、環境などに重大な影響をもたらす事故につながっています。例えば航空機や鉄道、船舶などの交通機関、原子力施設をはじめとするプラントなどの大事故の多くは、このいずれかの段階でのヒューマンエラーが原因となっています。誰もが起こしかねないヒューマンエラーを起こしにくくし、また、もしエラーを起こしても事故につながらないようにする(フェールセーフ)対策が必要です。
3. ヒューマンエラー対策の考え方とは
ヒューマンエラーの研究・分析とその成果の活用は、第二次大戦中のアメリカ軍で多発した航空事故対策をきっかけに本格化し、航空宇宙の世界から運輸業、建設業、製造業、医療、サービス業などへと広がってきました。人間と機械/装置の接点(マンマシンインターフェイス・ヒューマンインターフェイス)を軸に、人間の生理/心理などの特性(ヒューマンファクター)と、機械の構造/機能の両面からさまざまなアプローチがなされて成果をあげています。
そのなかで一貫しているのは、「人は誰でもエラーを犯すもの」という視点に立ち、個人の責任や努力の問題に帰するのではなく、エラーを引き起こす製品やシステムの操作/作業手順、そしてそれらに関わる業務組織の問題点を解明し、その改善を図るという考え方です。ヒューマンエラーによるトラブル発生の知らせを受けると開口一番「誰がやったの?」と聞く管理者がよくいますが、これはヒューマンエラー対策の観点からは避けなければならない態度です。
ものづくりに携わる技術者やビジネスパーソンの皆さんも、書籍やものづくりドットコムの記事、セミナーなどを通じて改めてこの考え方や具体的知見を整理し、自身・自社内をはじめ各段階で製品に接する人のエラーを想定したうえで、それらを防ぎ、あるいはカバーする設計やデザイン、仕組み、手順の設定を行なって、事故やトラブルの発生を防いでいただきたいと思います。
4. 私がヒューマンエラー対策の考え方に触れたきっかけ
子供の頃、私は「鉄道少年」でした。(今では立派な「鉄道中年」です…) 中学生になって大人向け...
文中にしばしば登場する「空飛ぶドクター」こと航空自衛隊 航空医学実験隊長の黒田勲空将(当時)が、たまたま私の家の近所に住んでおられたこともあって興味はさらに深まり、以来大学、社会人と、常にこの分野の考え方を頭の片隅に置いて技術者人生を送ってきたつもりです。ヒューマンエラー対策の考え方を広く世に知らしめ、私がこの考え方を知るきっかけを作ってくださった柳田氏、そして今は亡き黒田氏に、改めて深く敬意と感謝を表します。