現在、イノベーション実現に向けての「思考の頻度を高める方法」を解説していますが、そのための2つ目の要素「同じ一つの行動をするにしても思考の頻度を増やす」さらにはその中の3つの視点の内、前回は、嗅覚についてでした。今回は味覚を対象とします。
【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その153)へのリンク】
◆関連解説記事 行動を起こすことで得られるのは、情報や経験だけでなく、そのコンテキストや新たな感覚・感情や充実感
10.味覚は最も活用されていない感覚
これまで、視覚や聴覚と比べてあまり活用されていない触覚、嗅覚について解説してきましたが、今回取り上げる味覚はそれ以上に活用にされていない感覚ではないかと思います。舌は常時口の中に格納されていますし、おいそれと口に含めば細菌や毒物などにより体に悪い影響を及ぼす可能性が高いので、当然のことと思います。
しかし、活用の機会が少ないからこそ、味覚の活用を考えることが、イノベーション創出の面からも重要と思われます。
(1)現在存在する味覚の食物や飲料への活用以外の活用法
味覚は食物や飲料の栄養、毒や腐敗の判別、おいしさと直結していますの、食物や飲料に関しては多いに利用されてはいます。しかし、それ以外に活用法はないのでしょうか?
以下のような食物や飲料と関係のない分野で、味覚は活用されてきています。
- 農家では、土を口に含み、土壌の良し悪しを判断し、施肥の量を調整するなど、味覚を利用した方法がとられています。
- 古代の医者は、患者の尿や膿の味を調べて、診察に利用していました(ギョッとしてしまいますが)。
- 古代の水道橋を研究している研究者は、水道橋に使われている石の味で、水道橋の年代を特定できるそうです。
- 歯科医は、患者が感じる詰め物や義歯の金属の味で、その材料の適正度を判断することがあります。
しかしながら、上でも述べたように、味覚は食品や飲料分野では極めて重要な役割を担うのですが、それ以外の分野での活用は限定的です。
(2)味覚の利点
味覚や嗅覚は、視覚、聴覚そして触覚は物理的に対象物を捉えるものである一方、化学的に、そしてそれゆえ多面的に(さまざまな物質のイオンを捉えることで)対象物を理解できるという点で違いがあります。そのため、かなり精緻に対象物を理解することができます。また、同じ化学的に対象物をとらえる嗅覚に対しては、嗅覚が気体を介してのみ捉えるのに対し、味覚は対象物を個体、液体、気体なんでも直接触れることで、その組成を感知することができます。また、嗅覚は匂いが漂ってくるだけで匂いを受動的に検知するものですが、味覚は自ら口に入れるという選択性や主体性を備えています。
(3)味覚の活用余地
味覚により、毒や衛生上問題でないものは、理論的にはな...
んでも口に入れて、瞬時にその対象物を感じることができます。人間を含め動物にとってこの感応能力は、生存、成長や生殖に直結するもので、主に食物を対象として、進化の中で発達してきたものです。しかし、人間においては、上の理由の活用の余地がいろいろあるのではないでしょうか。たとえば、一例ですが植物の葉っぱや茎を噛むことで、その食物の生育状態を調べるなどということはありそうです。
食物や飲料以外の異物を口に入れることは、相当抵抗を感じることではありますが、活用してはどうでしょうか?
次回に続きます。