データ分析において数字で表現するメリットは計り知れませんが、デメリットもあります。それは「数字が一人歩きして誤った方向に誘導してしまう」ということです。どの数字をどう見せるかで、向かう方向を誘導することもできますので恐ろしいことです。その向かった先が、例えば何かしらの課題を解決する方向なら良いのですが、そうでない場合には傷口を広げることもあります。今回は「一人歩きする数字」というお話しをします。
【目次】
1. 焼畑ビジネス
2. 囲い込みすぎビジネス
3. コンプリートビジネス
4. 誘導する意図をもっている場合もある
5. お困りごとを見極めよう
【この連載の前回:(その278)データサイエンスの基礎体力づくりとはへのリンク】
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1. 焼畑ビジネス
ある企業で、結果的に焼畑ビジネスになってしまったというお話しです。今でいうところのサブスクリプションビジネスをやっていました。いつまでも新規獲得を最優先し、顧客維持(離反阻止)を疎かにし、まさに焼畑農業のごとくビジネスをやり続けました。
なぜそうなったのかというと、1つの要因として、いつまでも新規獲得関連の指標(数字)を最優先し見ていたからです。要は、離反に関する指標(数字)は二の次だった、ということです。ある時期まで有効な指標(数字)も、ビジネスする上で、ある時期からそれほど有効でなくなる場合があります。
2. 囲い込みすぎビジネス
顧客の囲い込みが重要だ! ということで、既存の顧客ばかり注意が向き、新規獲得がおざなりになった、某中小企業がありました。要は、お得意様が数十年まったく同じという、恐ろしい現象です。重要視していた数字は売上で、大きく落ちないことを良しとしていました。
つまり、売上を伸ばすという意図はなく、同じ企業からいつも通り発注がくれば御の字という有様でした。お得意様がたくさんくれば、それはそれでいいのかもしれませんが、この企業の場合には、お得意様はその業界を代表する企業1社のみでした。売上を最重視しているといっても、その企業との取引に関する指標(数字)を見ているという感じです。
企業が生き残る上で、特定の取引先の数字だけを見ることが適切であったかどうか、疑問が残るところです。
3. コンプリートビジネス
こちらはIT系の某上場企業です。
サービスのラインナップがあり、それらすべてを受注した顧客に対し、内々でコンプリートといって、営業さんの方々は喜んでいました。コンプリートに関する指標(数字)そのものは、その企業の正式な指標ではなかったものの、現場で重要視されていました。営業はコンプリートすることに夢中で、受注後の案件は技術サイドに丸投げ状態でした。
問題は、できるかどうか分からない口約束のようなそうでないような案件が多発し、技術サイドが非常に困るという状況が多発しました。その結果、顧客満足度も下がり、さらにLTV(顧客生涯価値)も下がり、年度末には離反阻止対策祭りが毎年開催される始末です。話しを聞く限り、コンプリートそのものはLTV(顧客生涯価値)を高める一手段だったようです。
結果的にLTV(顧客生涯価値)の高い顧客が、コンプリートし継続的に取引が続いているケースが多かったからです。いつしか、手段であったコンプリートが目的化し、おかしなことになったようです。このように、何を重視するのかで、おかしな方向に向かってしまいことがあります。
4. 誘導する意図をもっている場合もある
ここまでは、意図せず数字が一人歩きし、おかしな方向に誘導されてしまった例を説明しました。
しかし、世の中には頭のいい人もいるようで、誘導する意図をもって数字を一人歩きさせる例も、少なくありません。そもそも、数字が一人歩きすること自体は、問題では...
ありません。問題なのは、誤った方向に誘導するような一人歩きです。
5. お困りごとを見極めよう
数字の一人歩きが、誤った方向に誘導しているのか、そうでないのか見極める方法は、幾つかあります。その一つは、お困りごとを見極める、ということです。その数字が一人歩きしたとき、どのようなお困りごとが解決するのか、をよくよく考え明確にしてみましょう。誤った方向に誘導している場合、解決するお困りごとがありません。最悪、お困りごとを生成するケースさえあります。
先ほど挙げた例は、どれもお困りごとを解決するのではなく、お困りごとを生成させた例です。どの数字を重視するのかは、実はとても重要で、場合によっては一人歩きし、誤った方向に誘導する危険性があります。