日本版デュアルシステムについては、基盤整備センターが2019年12月に発行した「技能と技術」誌2019年4号に掲載された調査研究報告「日本版デュアルシステム」の現状と課題(岡山労働局谷中善典局長)がよくまとまっていますので、その報告書を参考にしてご説明します。
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3. ドイツにおけるデュアルシステム
日本版デュアルシステムのご説明の前に、発祥の地ドイツにおけるデュアルシステムのご説明を致します。
日本版デュアルシステムのモデルであるドイツのデュアルシステムは、企業における実地訓練(3分の2)と職業学校での学習(3分の1)を並行して行う二元的(デュアル)な訓練で約350の公認訓練職種があり、最終試験に合格すると、ド イツで最も人気が高い初期職業訓練修了資格が得られるもので、義務教育を修了した若者や大学入学資格を取得した若者などが主な対象です。訓練内容は法律で規定されており期間は職種や受講生の保有する資格によって2年から3年半となっています。
このデュアルシステムが世界的に注目されるのは、欧州におけるドイツの若者(15歳から24歳)の失業率の低さで、2015年を例にとると、EU加盟28ヶ国の平均29.9%、スペイン49.9%、イタリア42.7%、フランス34.5%中、ドイツが最低の7.2%の理由として、このデュアルシステムの存在が挙げられているのです。
4. 日本版デュアルシステム
1)導入の契機
就職氷河期(1993年~2005年)に当たる2003年に「若者自立・挑 戦プラン(以後プラン)」が内閣府主導で策定され、 その中で「若年者向けの実践的な教育・職業 能力開発の仕組みとして新たに、企業実習と教育・職業訓練の組合せ実施により若者を一人前の職業人に育てる『実務・教育連結型人材育成システム(日本版デュアルシステム)』を導入する。」として日本版デュアルシステムはこのプランの柱となる施策 の一つとして導入されたのです。
2)導入後の状況
文部科学省は2004年2月に「日本版デュア ルシステム」の効果的な導入方法を探るモデル事業を20地域25校取組を選定して取り組み、平成19年度に事業が終了し「企業実習を通して生徒 の実践力の向上や勤労観・職業観の醸成が図られた」と評価し本事業の推進は有効であると判断されたもののその後は①受入れ先の不足,②企業側の人的・物的負担,③安全確保策の負担,④連絡窓口など学校側の負担などの課題に加え長期の実習が確保できずインターンシップとの差異を明確にできないとの課題も残されている。
3)現状
活動状況ですが、当初は厚生労働省と文部科学省が連携した、日本版デュアルシステムの一体となった実施が想定されていましたが、現在は、それぞれ別事業に分離してしまっています。普及と言う点でも、インターンシップが2016年度83.7%の公立高等学校に導入されているのに対して、デュアルシステムの方は、余り普及していないのが現実です。
その背景には、インターンシップの場合、企業と学校との連携をコーディネートする機関・組織(商工会議所、建設業協会などの業界団体、インターンシップ推進協議会など)がかなり確立されているのに比べて、デュアルシステムの場合、実施期間が長い上、実施内容が複雑なこともあり、企業と学校との連携のコーディネートが難しく、モデル事業の域を出ていないのです。
ただ、この「日本版デュアルシステム」は、前回ご説明した通り、実施したモデル事業で、学生、学校、企業ともに好評であるだけでなく、文部科学省から、実効性のある日本型デュアルシステムの在り方、その実施方策などについての調査研究を委託された財団法人「産業教育振興中央会」が設置した「日本版デュアルシステムに関する調査研究協力者会議」の報告書に「我々は、これからの日本社会にとって、専門高校等の教育に「日本版デュアルシステ ム」を導入することが非常に重要であると考える。」とあるように、高く評価されていることは確かなのです。
4)今後の課題
今回「日本版デュアルシ...
と言いますのは、今回、表2-1の喫緊の課題の8番目「採用が難しい」の背景「学生に会社を理解してもらう機会がない」に対する解決手段として「日本版デュアルシステム」を取り上げ、改めて詳しく調査したところ、内容そのものは、課題解決に申し分ないことが分かったのですが、このシステムを導入したいと思われた企業がどう据えればよいのかは何処にもなく、文科省に問い合わせたんですが埒が明かず「導入を希望する学校と企業のマッチングをコーデネートする全国規模の組織の設立」が最大の課題だという結論になった次第です。
次回に続きます。