革新的テーマ創出のための環境「失敗を罰しない」(前編)

 革新的創出に向けた環境の用意としては、研究開発担当者がテーマを継続的に創出しないと困る状況を創出する「ネガティブ要因」と、研究開発担当者が積極的に革新的テーマを創出したくなる状況を創出する「ポジティブ要因」、そして革新的テーマを創出し、事業化する過程での阻害要因を取り除き、研究開発担当者が革新的テーマに取り組んでもよいと思わせる「中立要因」があります。今回は、その「中立要因」のなかでも「失敗を罰する」意味について2回に分けて議論をします。

 

1.革新的テーマ創出において失敗を罰するとどうなるか?

 革新的テーマの「革新性」とは、他社が手掛けていないことを意味します。したがって、不確実性が高く、それゆえ失敗の可能性は高いのが普通です。分母にもよりますが、失敗の可能性は一般論として90%以上になると思います。失敗の可能性の高さは、革新的テーマを手掛けることの本質的な特徴です。このような革新的テーマの本質問題を無視して、事業化・商業化の過程で失敗したチームを罰していては、ほとんどの革新的テーマに関わったチームは、罰せられることになります。

 自身で罰せられた人は当然のこと、そのような経緯を見ている他の社員も、革新的テーマを自ら起案して取り組むということを避け、凡庸な失敗の可能性の低いテーマに取り組むようになります。つまり、社員の失敗を罰したら、革新的テーマには二度と主体的に取組まなくなるのです。

 

2.プロジェクトチームの怠慢や無能に起因する失敗にどう対応するか?

 ここで良く疑問となるのが、チームの怠慢や極端な無能によって失敗した場合をどう扱うかです。チームの『明らかな』怠慢や無能による失敗は、罰しても良いでしょう。しかし、その原因が『明らかではない』場合はどうでしょうか。前人未踏の革新的テーマへの取り組みの場合に、そのような場面が起こりがちです。想定していなかった状況が発生したり、重要な前提条件を見逃してしまったということです。

 通常、人間は、他人の失敗に対してはどうしても厳しくなる心理的な傾向があります。特にその失敗が、自分に悪影響を与える時はなおさらです。しかし、革新的テーマ創出に責任を持つマネジャーとしては、そこをぐっとこらえなければなりません。なにしろそこで失敗を罰したら、社員は二度と革新的テーマに取り組まなくなってしまうからです。したがって、その原因が『明らかに』チーム側の怠慢や無能であると特定できる場合を除き、失敗は罰するべきではありません。つまり、革新的テーマのマネジメントにおいては、「失敗は罰しない」を標準とすべきということです。

 結果として、本当はチームの怠慢や無能が原因で失敗した革新的テーマが、罰せられずに済まされる場合も起こるでしょう。その時、本人達はどう考えるでしょう?ほと...

んどのメンバーは「しめしめ」とは思わないものです。自らの怠慢や無能を反省し、「次の(革新的)テーマでは、このような失敗は二度としないようにしよう」と思うケースがほとんどです。もしそう思わない社員がいたならば、その失敗がむしろチームメンバーの怠慢や無能であることは、おのずと『明らか』になる可能性が大きいと思います。特に、ステージゲートのような複数の評価の関門があり、またそこでプロジェクトチームが成果物(ゲートミーティングに向けた説明資料)をつくることを課す場合には、そのようなチームは明らかになるものです。次回は、失敗を罰しないの後編です。
◆関連解説『ステージゲート法とは』

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