データをいかに活用しビジネスを加速させればいいのか。そのためのツールとして、データ活用プラットフォームがあります。呼び方は様々で、単にデータプラットフォームと呼ばれたり、データ活用基盤と呼ばれたり、データマネジメントプラットフォームと呼ばれたり、色々です。
データ活用プラットフォームをどのように構築するのかは、ビジネスに重大な影響を与える可能性があるため、とても刺激的で、そして困難を伴うものです。データ活用プラットフォームの部品は、AWSやAzure、Google Cloudなどでクラウドサービスとして提供されているため、多くの場合はそれらを組み合わせれば十分でしょう。そういう意味では、非常に手軽にデータ活用プラットフォームを構築できるようになりました。今回は「データ活用プラットフォームとデータサイエンス」というお話しをします。
【この連載の前回:統計的機械学習で使用する混同行列と評価指標 データ分析講座(その297) へのリンク】
1. 何のためにデータ活用プラットフォームを作るのか?
何のために、データ活用プラットフォームを構築するのでしょうか?理由は様々ですが、抽象的に表現すると「意思決定プロセスを支援しビジネス拡大するため」でしょう。意思決定プロセスのスピードや質などを向上させたり、効率化したり、といったところだと思います。要は「誰かが何かを判断し決めるときにデータに基づいたサポートをする」という感じです。そういうことは、すぐに実現できないため、当面の目的としては「データ分析作業の効率化」があげられます。
まとめると次のようです。
- 短期的には、今やっている(もしくは、やろうとしている)「データ分析作業の効率化」
- 中長期的には、「意思決定プロセスを支援しビジネス拡大するため」
2. データ活用プラットフォームのイメージ
発生したデータが活用されるまでに、例えば、次のような幾つかのレイヤー(層)が必要になります。名称は、筆者が付けました。人により呼び方は異なると思います。
- データ収集レイヤー
- 統合レイヤー
- 前処理レイヤー
- ストレージレイヤー
- アナリティクスレイヤー
データ収集レイヤーとは、様々なデータソースを集めるレイヤーです。購買履歴データであったり、財務データであったり、Webログデータであったり、各種マーケティングデータだったりします。農作物で例えると、果物や野菜を収穫する感じです。
それらのデータを統合するのが、統合レイヤーです。ETLと呼ばれる処理が実施されることが多いです。ETLとは、Extract(抽出)・Transform(変換)・Load(格納)の頭文字をとったものです。要は、データソースから必要なデータを抽出し変換し、そしてストレージに格納します。ETLは非常に地味ですが、非常に重要です。農作物で例えると、収穫した果物や野菜を選別し出荷した感じです。
ストレージレイヤーとは、端的に言うとBIツールなどを接続するデータウェアハウスです。このデータウェアハウスに接続し、集計や分析、数理モデルなどの構築などを実施していきます。農作物で例えると、出荷された果物や野菜を格納する倉庫(ウェアハウス)といった感じです。
前処理レイヤーでは、ストレージレイヤーのデータウェアハウスに接続し、前処理を実施します。
統合レイヤーからストレージレイヤーに流れてきたデータは、畑から選別され出荷された果物や野菜のようなものです。そこにさらに何かしら処理を加えます。調理する人などが使いやすいように一手間二手間加えます。例えば、小分けにしてみたり、カットしてみたり、調理してみたりし、店先に並べます。
データも同じで、統合レイヤーからストレージレイヤーに流れてきたデータ対し、データ活用する人などが使いやすいように一手間二手間加えます。それが前処理です。
アナリティクスレイヤーとは、BIツールなどでストレージレイヤーのデータウェアハウスに接続して活用したり、データサイエンティストがストレージレイヤーのデータウェアハウスに接続して活用し高度なデータ分析や数理モデル構築などをしたりします。
アナリティクスレイヤーで各種検討されたデータ分析方法や数理モデルなどの中には、定期的に実施するものが登場します。そういったものは、前処理レイヤーに移行します。そのとき、ほぼ人手から離れた状態にしておく必要があります。
3. 制約事項と優先すべきお困りごと
データ活用プラットフォームの構築を開始するとき、先ず明らかにすべきは、以下の2点です。
- ヒト・モノ・カネ・時間・技術などの制約事項
- 優先すべき「お困りごと」(ビジネス課題)
ヒト・モノ・カネ・時間・技術などの制約事項とは、文字通り人的リソースや使える金銭的資源、社内人財だけでできそうなこと、外部に依頼したほうが良さそうなこと、必要な時間などです。優先すべき「お困りごと」(ビジネス課題)とは、データ活用のテーマを洗い出し、そこに優先順位を付けていくことです。いきなり、予測モデルや異常検知モデルなどの数理モデルを活用するテーマにするのではなく、集計ベースのデータ活用で実現できるテーマを選ぶなどをしたほうがいいでしょう。
データ活用プラットフォームを構築することは、非常に刺激的ですが、困難を伴うものです。そこに、挑むデータ活用テーマそのものが難しいと、2重苦になります。そのため、データ活用プラットフォームを使ったデータ活用テーマは、最初は集計ベースのデータ活用で実現できるテーマを選ぶと良いでしょう。
4. 長期的視点も忘れない
先程、データ活用プラットフォームを作る理由として、 短期的には、今やっている(もしくは、やろうとしている)「データ分析作業の効率化」 中長期的には「意思決定プロセスを支援しビジネス拡大するため」と言いました。
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データ活用プラットフォームを構築し始めると、中長期的視点が記憶の彼方に行ってしまったり、恐ろしいことに短期的視点も消え去りさったりし、データ活用プラットフォームを構築することのみに目が行ってしまうことがあります。言いたいことは、長期的視点も忘れないように、ということです。
先程「意思決定プロセスを支援しビジネス拡大するため」と抽象的に表現しましたが、この抽象的なものを可能にするため、どうすればいいでしょうか。答えは簡単で、より高度なデータ活用を可能にする柔軟かつスケーリング可能なデータ活用プラットフォームを作る、となります。
そのためには「意思決定プロセスを支援しビジネス拡大するため」を具体化し、それらが構築中のデータ活用プラットフォームで実現可能なのかどうかを、チェックする必要がでてきます。データ活用プラットフォームは、データのサイロ化を打破するための1つとして作られる側面もありますが、データ活用プラットフォームそのものがサイロ化されないように気をつける必要があります。
次回に続きます。