レオロジーを深く知る(その5)簡単な数学と物理的事項

【目次】

    前回のレオロジーを深く知る(その4)簡単な数学と物理的事項に続けて解説します。

    2. 物理的に考えるときに必要な要素

    2.1 モデルについて

    これまで「モデル」という言葉をとくに定義せずに使用してきましたが、本来は「型や模型」といった意味を持ち、それが転じて「手本や模範」としても使われます。さらに「事象や理論の成り立ちを説明するための簡単で理解しやすい概念」とも解説されます。たとえば「地動説」を説明するための「太陽系モデル」や経済活動に関する「ビジネスモデル」、さらには物理的な現象を表す「物理モデル」そして数学を応用した「数理モデル」などがあります。

     

    2.1.1 物理モデルとは

    物理現象を対象にした「物理モデル」とは、物理的な出来事を記述し、その本質を見極めるために構築される、簡潔で理解しやすい概念と捉えられます。これは複雑な実事象を単純化して本質を抽出する試みであり、抽象化と要素の選別といったアプローチを取るものです。ここでは、レオロジーに関連する理論を説明するために物理モデルを使用し、理解を深めています。また、数理モデルという、数学を物理モデルに適用した考え方を使用することもあります。この場合、イメージできた概念を数式で表現し、物理現象を数値計算で記述することが可能になります。

     

    2.1.2 身の回りの事象と線型性

    我々の身の回りで起こる実際の事象は、通常非常に複雑です。これを解析しようとすると、評価したい出力(応答)が分かりづらいことや、入力さえも不明確な場合がよくあります。しかし、入力が小さい場合には、幸運なことに、応答が線型で扱えることが知られています。線型応答が期待できる場合、加法性や斉次性を利用できるため、入力が多様であっても、それらを分割可能であれば、系の応答がそれらの重ね合わせによって説明されると考えられます。このようなアプローチで、取り扱いたい事象を単純化して理解できます。

     

    以下はこの関係を箇条書きにしたものです。

    • 実際の身の回りの現象
     – 非常に複雑な場合がほとんど。
     – 評価したい応答も分かり難い。
     – 入力すら不明確なときも。
    • 線型現象であれば、取り扱いが容易。
     – 微小な刺激に対しては、線型応答が期待できることが多い。
     – 線型応答の重ね合わせで、事象を近似する価値は高い。

     

    ここで、入力と出力の関係を見るときに大事なことを 1 つだけ。入力が 1 のときの出力を意識してください。これは、比例定数を求めることにほかなりません。線型性が成り立っているのであれば、比例定数を調べることで物質の性質を容易に比較できることを後ほど示します。

     

    3. 物理モデルに必要な「量」「次元」「単位」

    これまで、数学の基礎的な内容や線型性について確認し、実際のややこしい身の回りの現象を単純な物理モデルへと近似する方法について説明しました。次に、物理的な考え方において重要な「量」「次元」「単位」について振り返ってみましょう。

     

    3.1 量とは

    「量」は、広辞苑では「測定の対象となるものの大小や多少」とされています。これを日本工業規格JIS Z 8103 の「計測用語」で見れば「定性的に考えて区別し、定量的に決定できるもの」となります。要するに、物事を評価する際に大小や多少が分かり、かつ数量的に測定できるものと言えます。他の関連する言葉と合わせて、その定義を以下に示します。

     

    量 現象、物体又は物質の持つ属性で、定性的に区別でき、かつ、定量的に決定できるもの。物理量 物理学における一定の理論体系の下で次元が確定し、定められた単位の倍数として表すことができる量。工学量 複数の物理的性質に関係する量で、測定方法によって定義される工業的に有用な量。硬さ、表面粗さなど。量の次元 ある量体系に含まれるある一つの量を、その体系の基本量を表す因数のべき乗の積として示す表現。量体系 一般的な意味で、定まった関係が存在する量の集合。単位 取決めによって定義され、採用された特定の量であって、同種の他の量の大きさを表すために比較されるもの。

     

    物理的に考える際には「(後述の)次元が定まり」「定められた単位の倍数として表される」必要があります。工学的に物理的性質を考える際にも、その量は「測定方法によって定義」されなければなりません。したがって、量というものを「次元と単位」で議論する際に、測定方法を定義することが必要です。

     

    3.2 量の性質

    量の性質について、考えてみましょう。量の演算は以下のような性質を持っています。

    • 同じ種類の量同士は和と差の演算が定義可能
     – 結果は同じ種類の量
     – 異なる種類の量の和や差には意味がない
    • 同じ、あるいは、異なる種類の量同士でも積や商が定義できることがあり、
     – 長さ同士の積は面積
     – 長さの時間による商は速さ

     

    同じ種類の量同士は足し算や引き算ができますが、異なる種類の量同士の和や差は意味がありません。一方で、同じまたは異なる種類の量同士の積や商が定義でき、それによって新たな量が生まれます。たとえば、長さ同士の積は面積、長さと時間の商は速さなどです。異なる量の積や商については、次元という概念を使うと簡単に理解することができるようになります。

     

    3.3 量の次元について

    「次元」とは、量の表現方法の 1 つで「基本量を表す因数のべき乗の積」として示されます。具体的に行きましょう。国際量体系(ISQ)という体系にしたがって、表 1 のように 7 つの基本量が定められています。

     

    表1.国際量体系での 7 つの基本量

     

    3.4 次元の関係式

    量Qの次元は、角括弧で括って [Q] で表記することになっています。たとえば、長さの次元は [L]、質量の次元は [M] といった具体的な形です。このとき、長さという基本量に関わる量体系は、下式のようなものとなります。

    物理学や工学では、異なる基本量を組み合わせて新しい量を表現します。速さや加速度、力、仕事などがその例です。

    ここで大事なのは、次元の関係式とは「定数係数を無視した等式として表すことで物理現象の成り立ちを表している」ということになります。

     

    3.5 単位について

    最後に「単位」についてです。単位は取決めによって定義され、同種の物理量の大きさを表すために使います。現代では、国際単位系(SI8)が広く使われており、表 1 に示した次元の基本量に対応した 7 つの基本単位が定められています。たとえば、長さの SI 単位はメー...

    トル [m]、質量の SI 単位はキログラム [kg] となっています。

     

    基本単位の組み合わせとして、固有の名称と記号で表される組立単位(SI 組立単位としては 22 個)もあります。レオロジーに関連する主要なものを表 2 に記載しました。

     

    表 2: レオロジーで用いられる SI 組立単位の例

     

    3.6 この章のまとめ

    この章では「レオロジーを始める前に」として最小限の数学および物理的な事象についての説明を行いました。以上の基本的な概念を理解しておくことは、物理モデルやレオロジーにおいて重要です。次の章からはこれらの概念をもとに、より具体的なレオロジーの理解を深めていきます。

    • 数学的な事項の確認
     – 数学的に書き表すときに基本となる「関数」
     – 事象の単純化に重要な「線型性」
    • 物理的に考えるときに必要になること
     – 物理モデルと線型性
     – 「量」「次元」「単位」

     

     

    次回に続きます。

     

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