【記事要約】
シリカと地熱発電、地熱発電は自然の環境に依存する要因が大きく、常に熱水の温度、圧力、シリカ濃度が変化している。これがシリカスケール発生の抑制を難しくしている要因です。この記事で述べる方法は、どれもシリカスケール発生の抑制効果はありますが、現時点では地熱発電所の特徴に応じて方法を組み合わせて運用しているのが現状です。どんなタイプの地熱発電所にもオールマイティーに適用できて完全にシリカスケールの発生を予防できる技術が確立できれば、ボトルネックとなっている発電コストも下げることができます。
1. シリカと地熱発電
日本は世界第3位の豊富な地熱資源量を持っており、地熱発電のポテンシャルが非常に高い国です。地熱発電は、CO2排出量がほぼゼロで、持続的に発電が可能な再生可能エネルギー(再エネ)であり、天候などの自然条件に左右されず安定的に発電できる「ベ...
2022年8月業務スーパーの沼田昭二社長が100億円を投資して地熱発電ビジネスに乗り出すという報道がありました。村田社長がなぜ地熱発電になぜ取り組むのかというと「エネルギー問題を抱える日本の次世代の子どもたちのためにはいまやらなければならないとえるからです。」村田社長は、これまで大規模であった地熱発電所を採掘から建設までをよりコンパクト化して、市町村や小規模事業者も導入できるシステムをスーパー経営のノウハウを使って構築するという画期的なものです。2)
しかし、地熱発電のコンパクト化には、現在地熱発電所が抱えている数多くの問題をクリアをしなければならず、特に配管や設備に付着するスケール問題は避けて通れません。今回はシリカに着目してこのスケール問題について解説します。
2. 地熱発電とは
地熱発電とは、地中深くから取り出した蒸気で直接タービンを回し発電する方法です。火山や天然の噴気孔、硫気孔、温泉、変質岩などがある、いわゆる地熱地帯と呼ばれる地域では、深さ数キロメートルの比較的浅いところに1000℃前後のマグマ溜りがあり、この熱が地中に浸透した天水などを加熱し地熱貯留層を形成します。ここから発生した地球内部の熱を直接エネルギー源として利用するのが地熱発電です。
Fig1のように、地熱発電は噴出した蒸気と熱水が混合した流体(二相流体)通る生産井と、気水分離機で分離させた熱水を戻すための還元井と2つの井戸で構成されています。熱源から噴出した二相流体は、生産井を通り、気水分離機により蒸気と熱水に分離され、分離された蒸気はタービンへ、熱水は、還元井戸を通り地中に戻されます。気水分離機により分離された蒸気によりタービンを回し、発電機が駆動し発電されます。この発電原理は、火力発電も、原子力発電も基本的には変わりありません。タービンで使用された蒸気は、復水器により冷却水で凝縮されます。凝縮された温水は冷却塔へ送られ、蒸発冷却されます。冷却水は復水器に送られて蒸気を冷却するために再び使用されます。
Fig1. 地熱発電の概略3)
3. シリカスケールの生成
熱水は、高温高圧下でシリカ鉱物と溶解平衡にあるため、高濃度のシリカを含んでいます。気水分離器で蒸気から分けられた熱水は、熱水輸送管から還元井を通って地中に戻されます。この熱水から蒸気を分離することによりシリカの濃縮及び温度低下が生じ、シリカが過飽和となるとスケールとして析出します。熱水輸送管などを通るうちに熱水の温度が下がってくると、熱水中に溶けているケイ酸(シリカ)がパイプ内部に付着するようになります。Fig2に示すように、熱水中では地中から溶け出したケイ酸モノマーが、ダイマーになり、脱水縮合を繰り返すことで、シリカ一次粒子(シリカコロイド粒子)が形成されます。コロイドというのは液体に分散している状態を指し、一次粒子が二次流体に分散している状態を表します。
Fig2. シリカコロイド粒子の生成過程
二層流体に分散しているシリカコロイド粒子は、温度が下がると配管壁面に析出してきます。これが乾燥することによりシリカスケールとなります。再び、熱流体が流れ、冷却されると新たなコロイド粒子が析出され、乾燥によりシリカスケールとなり、この繰り返しによりシリカスケールは成長していきます(Fig3)。シリカの溶解度は、温度が高くpHが高いほど大きくなり、特にpH10を超えたときに急激に上昇します。常温でのシリカの水に対する溶解度は、200ppm程度で、1Lの水に0.2gシリカが溶解していることになります。二層流体の温度は100℃以上ですので、常温に比べてよりたくさんのシリカが溶けているということになるため、結果スケールの形成されやすくなり、生成するスピードも速くなります。
Fig3. シリカスケールの生成イメージ
生成したシリカスケールは、配管の中で生成してphoto1のような状態となり、動脈硬化を起こした血管のようになってしまいます。更に、一旦シリカスケールが発生するとそこが種となり、成長スピードが速くなります。このため地熱発電所によっては、配管が一年持たず、頻繁に交換しなければならず、材料や工事等の交換費用、発電停止によるロスが生じ、発電コストを押し上げる原因となるため、対策が必要です。
Photo1. 配管中のスケールの状態4)
◆関連解説記事:シリカの構造、次世代のシリカ材料、希少価値の高いシリカとは
4. シリカスケール発生の防止対策
おもな防止対策にはpH調整法、高温還元法、希釈法、のようにシリカの生成を抑制する方法、滞留槽法、過飽和シリカ除去のように強制的にシリカを析出させ分離する方法の2つに大別され、どちらも先に述べたシリカの特性を利用しています。
(1) シリカの生成を抑制する方法
① pH調製法
酸を熱水に添加することによりpHを下げてスケールの生成速度を抑える方法。シリカ濃度や塩濃度が高い場合は効果が小さい、酸により配管が傷みやすくなるという課題があります。
② 高温還元法
高温・高圧を維持することにより、シリカが過飽和になることを抑える方法です。しかし、以下のような課題があります。負圧の環境や、シリカ濃度や塩濃度が高い場合は効果が小さい。高温高圧を維持しなくてはならず、利用できる蒸気量が制限されてしますため効率が悪い。バイナリー発電やコージェネレーション等、排熱を利用する目的にそのままでは利用できない、バイナリー発電とは、加熱源により沸点の低い媒体を加熱・蒸発させてその蒸気でタービンを回して発電する方法です。
③ 希釈法
熱水に希釈水を混合してシリカ濃度が過飽和になることを抑える方法。熱水量が大幅に増加する。還元熱水温度が低下してしまう等の課題があります。
(2) 強制的のシリカを析出させる方法
① 滞留槽法
熱水を1時間程度滞留槽で滞留させて析出したシリカを沈殿させ、熱水中のシリカ濃度を減少させる方法。温度が高い場合、pHが高い場合は、沈殿が生成しにくいという課題があります。
② 過飽和シリカの除去(イオン添加法)
熱水に陽イオン等を添加してシリカを析出させて除去することにより、シリカ濃度を低減させる方法。添加した薬剤が熱水中に残留することにより還元され、スケールが析出する可能性がある。薬剤費等のコストがかかる等の課題があります。
更に、共通の課題として、析出したしシリカの効率的な分離方法の確立、熱水から分離したシリカの処理があり、筆者としては、再資源化して合成シリカ製造原料に使用ができないかと考えています。
【参考文献】
1)資源エネルギー庁HP もっと知りたい!エネルギー基本計画④ 再生可能エネルギー(4)豊富な資源をもとに開発が加速する地熱発電
もっと知りたい!エネルギー基本計画④ 再生可能エネルギー(4)豊富な資源をもとに開発が加速する地熱発電|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)
2)NHK HPビジネス特集、日本の地熱発電がすごい!? 世界3位の資源量 可能性にかける町https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220808/k10013759141000.html
3)藤光康宏、西島 潤、江原幸雄(九州大学工学研究院地球資源システム工学部門)が作成されたパネルより引用
4)地熱コーナー シリカスケール -ありがたくない地下からの贈り物-HP http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/publications/annual_exhibitions/MINE2001/04/04-09.html
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