前回のその26に続いて解説します。マーケティングの世界で、「社員全員がマーケター」という言葉があります。すなわち、マーケティング部門だけでなく、研究所、製造、購買、総務といった常日頃市場との接点を持たずに活動をする傾向の強い部門の社員も、全員が市場(マーケット)のことを考え活動することを促す言葉です。オープン・イノベーションも同様に考えることができ、『価値づくり経営』を追求する組織においては、全員が社外に目を向け、そこに価値づくりの機会を発見したり、その価値を社外の力を利用して実現することを考え、社員全員がオープン・イノベーションを重要な活動として常に念頭におかなければなりません。したがって、そしてあらゆる機会を利用して、「社員全員がオープン・イノベーター」を浸透させる必要性があります。
1.有効な価値づくり経営の浸透手段:「社員全員がオープン・イノベーター」
『価値づくり』という名前が付けられた、かなり概念的な印象の強い活動を、組織の末端まで浸透させようとしたら、より具体的な言葉に翻訳して知らしめる方が効果的であり、「社員全員がオープン・イノベーター」という旗印の下で活動を行うことは、効果的に『価値づくり』経営を実現する手段ともなります。
2.オープン・イノベーション『担当』部門設置の弊害
オープン・イノベーションを推進する多くの企業において、オープン・イノベーション『担当』部門が設置されています。何か新しいことをやろうとしてその専任部隊を置くということは、その機能強化の基本的な考え方です。しかし、ここには問題点があります。それは、オープン・イノベーション担当部署を
置けば、その部門外の全員が「オープン・イノベーションは俺たちの仕事ではない。彼らの仕事」と考えてしまうからです。オープン・イノベーションの活動を強化しようとして、その専任部隊を作ったのに、組織全体から見れば逆の方向に動いてしまうのです。
3.オープン・イノベーション『支援』部門の設置
「オープン・イノベーション担当部」ではなく、「オープン・イノベーション『支援』部」を名実ともに設置すべきです。その「名」の部分では「支援部門」ということで、その他の「社員全員がオープン・イノベーター」であることを会社全体にメッセージとして伝えることがます。また、「実」の部分では、この部門は名前の通り、他部門がオープン・イノベーションを主体的に行うことを、支援するという機能を持つようにすべきです。もちろん、オープン・イノベーションという概念を組織に浸透させることは簡単ではありませんので、現実的にはこの部門が主体となってオープン・イノベーションの『推進』を積極的に行わなければなりませんが、その基本姿勢としては「黒子」であることを忘れてはなりません。
この部門の役割は、「価値づくり経営」やその手段として「オープン・イノベーシ...
ョン」の経営における重要性の啓蒙および具体的なオープン・イノベーション実行の支援を行います。部門の名称については、「価値づくり」支援部」などの名前も候補に挙がるかもしれません。しかし、私はあまり賛成しません。今月安倍首相は新たに「一億総活躍推進室」を設置しましたが、あまりに包含する意味が大きく、国民には一体なにをやるんだというむしろ否定的な反応を起こしてしまします。それに多少奇をてらった感があり、むしろ「価値経営の重要性を伝えながらも、何をやるのかがずばり表現されている「オープン・イノベーション支援部」が良いと思います。