経験を知識に転換する工夫 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その58)

更新日

投稿日

 

技術マネジメント

 現在KETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解説をしています。しかし、いくら経験を重ねても経験(暗黙知)のままでは、イノベーションにつながることは困難です。効果的にイノベーションを起こすには、経験で得た暗黙知を、吸収・理解し、利用し、そして他の知識に発展させやすい知識、すなわち形式知に転換することが重要です。今回は経験を知識に転換する工夫について解説します。

1. 経験を知識に転換する3つの要素

 KETICモデルのKETICとは、知識(Knowledge)、経験(Experience)、思考(Thought)、意思(Intention)、好奇心(Curiosity)の頭文字をとったものです。ここでまさに、経験を知識に転換する要素として、思考、意思、好奇心の3つの要素が求められます。

(1) 意思(Intention)

 明確に輪郭がはっきりしないふわふわとした知識(暗黙知)を、明確なメッセージとしての知識(形式知)に転換すること簡単ではありません。そこには通常相当のエネルギーが必要となります。たとえば、私はよくクライエントと一緒にワークショップを開催する際、MECE(もれなく、だぶりなく)の構造を使って、課題などを整理するということをします。

 しかし、そこでは頭に相当汗を書かないと、きちんとしたMECEに基づくピラミッド構造はできません。そのエネルギーを発するために必要とする1つの要素が意思です。

 何が意思を生み出すのか?

 外部からの強制力などもあるしょうが、強い意思を生み出すには、自分がやるべきことを明確に認識し、腹の底からそれを納得感を持って理解するということではないかと思います。したがって、会社においてはミッション、経営方針、戦略、またその背景となる機会や脅威が明確になっていて、かつそこに納得性があるということが必要となります。

 つまり最終的にイノベーションを起こすためにも、これら要素、つまり何のためにイノベーションを起こすのかが極めて重要であるということです。イノベーションと言いながら、この点が明確ではない企業が大変多いように思えます。

(2) 好奇心(Curiosity)

 意思はどちらかというと、自分の心の奥底には抵抗するものがありながらも、それを強い意思で矯正するというニュアンスがありますが、好奇心はもう少し自然と湧きあがってくる、何かを知りたいという人間的なものと考えられます。

 もちろん意思を生み出す1つの要素ということもあると思いますが(その点から言うと意思と好奇心はMECEの関係ではないかもしれません。)それでは好奇心はどこから生まれるのか?

 それは基本的な人間の欲求を満たすための、知識を探求するということではないかと思います。

 有名なマズローの欲求階層説では、生理的欲求、安全欲求、社会性欲求、尊厳欲求、自己実現欲求があるとされています。

 これが全てか、また階層構造をなしているかは議論があるところですが、いずれにしてもこのような欲求が好奇心の背景にあるということであると思...

 

技術マネジメント

 現在KETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解説をしています。しかし、いくら経験を重ねても経験(暗黙知)のままでは、イノベーションにつながることは困難です。効果的にイノベーションを起こすには、経験で得た暗黙知を、吸収・理解し、利用し、そして他の知識に発展させやすい知識、すなわち形式知に転換することが重要です。今回は経験を知識に転換する工夫について解説します。

1. 経験を知識に転換する3つの要素

 KETICモデルのKETICとは、知識(Knowledge)、経験(Experience)、思考(Thought)、意思(Intention)、好奇心(Curiosity)の頭文字をとったものです。ここでまさに、経験を知識に転換する要素として、思考、意思、好奇心の3つの要素が求められます。

(1) 意思(Intention)

 明確に輪郭がはっきりしないふわふわとした知識(暗黙知)を、明確なメッセージとしての知識(形式知)に転換すること簡単ではありません。そこには通常相当のエネルギーが必要となります。たとえば、私はよくクライエントと一緒にワークショップを開催する際、MECE(もれなく、だぶりなく)の構造を使って、課題などを整理するということをします。

 しかし、そこでは頭に相当汗を書かないと、きちんとしたMECEに基づくピラミッド構造はできません。そのエネルギーを発するために必要とする1つの要素が意思です。

 何が意思を生み出すのか?

 外部からの強制力などもあるしょうが、強い意思を生み出すには、自分がやるべきことを明確に認識し、腹の底からそれを納得感を持って理解するということではないかと思います。したがって、会社においてはミッション、経営方針、戦略、またその背景となる機会や脅威が明確になっていて、かつそこに納得性があるということが必要となります。

 つまり最終的にイノベーションを起こすためにも、これら要素、つまり何のためにイノベーションを起こすのかが極めて重要であるということです。イノベーションと言いながら、この点が明確ではない企業が大変多いように思えます。

(2) 好奇心(Curiosity)

 意思はどちらかというと、自分の心の奥底には抵抗するものがありながらも、それを強い意思で矯正するというニュアンスがありますが、好奇心はもう少し自然と湧きあがってくる、何かを知りたいという人間的なものと考えられます。

 もちろん意思を生み出す1つの要素ということもあると思いますが(その点から言うと意思と好奇心はMECEの関係ではないかもしれません。)それでは好奇心はどこから生まれるのか?

 それは基本的な人間の欲求を満たすための、知識を探求するということではないかと思います。

 有名なマズローの欲求階層説では、生理的欲求、安全欲求、社会性欲求、尊厳欲求、自己実現欲求があるとされています。

 これが全てか、また階層構造をなしているかは議論があるところですが、いずれにしてもこのような欲求が好奇心の背景にあるということであると思います。従って、好奇心を高めるには、マズローの階層説の上部に位置する欲求を刺激し、またその欲求実現を会社や社会として支援する、すなわちそのような欲求にチャレンジする場を与え、また本人に「やればできそうだ」と思わせることではないかと思います。

(3) 思考(Thought)

 意思や好奇心を原動力に、経験を知識に変換する中核の活動が思考です。

 思考能力は基本的には人間に自然と備わっているものではありますが、複雑な事象を対象に効果的・効率的に思考するにはそれなりの工夫が必要であると思います。そのためには、例えば、思考のフレームワークを数多く用意するためのトレーニングをする、また思考の時間を用意するなどがあります。

 次回に続きます。

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
類似-3 普通の組織をイノベーティブにする処方箋(その102)

   現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」について解説しています。今回は、引き続き「類似」について考えてみたいと思...

   現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」について解説しています。今回は、引き続き「類似」について考えてみたいと思...


実践してこその戦略立案 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その13)

        今回は「実践してこその戦略立案」について解説します。    当たり前のように感...

        今回は「実践してこその戦略立案」について解説します。    当たり前のように感...


未来志向で見直す自社の強み 『価値づくり』の研究開発マネジメント (その24)

     前回は、オープンイノベーションを成功させるために、自社の強みの設定が必要であることを解説しました。今回は、その自社の...

     前回は、オープンイノベーションを成功させるために、自社の強みの設定が必要であることを解説しました。今回は、その自社の...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
先行技術テーマを企画段階で評価するには

1.先行技術開発    イノベーション、すなわち価値創造がものづくり企業におけるR&Dのミッションとして期待される中で、それを実現す...

1.先行技術開発    イノベーション、すなわち価値創造がものづくり企業におけるR&Dのミッションとして期待される中で、それを実現す...


サブシステムの開発目標 プロジェクト管理の仕組み (その42)

 前回のその41に続いて解説します。    下図は、改めて操作管理サブシステムだけを抽出したものです。   図78. 操作...

 前回のその41に続いて解説します。    下図は、改めて操作管理サブシステムだけを抽出したものです。   図78. 操作...


仕組みの見直しに成功する組織2 プロジェクト管理の仕組み (その26)

 前回の仕組みの見直しに成功する組織1に続いて解説します。    仕組みの見直しに成功する組織の考察ですが、今回は、マネジメントのコミットメ...

 前回の仕組みの見直しに成功する組織1に続いて解説します。    仕組みの見直しに成功する組織の考察ですが、今回は、マネジメントのコミットメ...